魔王と小僧
#VLAD

それはまるで
物語に出てくる『魔王』のようだった。
---------
ベギッ
凍てついた冬の空気にふさわしくない、
鈍く裂けた音が響く。
と同時に、斧を握った手元には嫌な感触が伝わった。
ああ…またやってしまった。
今日で何度目になるかわからない溜息をつきながら、切り株に深く突き立った斧と懸命に格闘する。
引き抜こうと藻掻く度に、
切り株はメキメキ…と軋みを立てた。
深い溝があちこちに刻まれたその姿は、
なんだか自分の姿を見ているようで同情を覚える。
斧はなかなか抜けない。
強く力をかけようにも、斧が壊れる事の方が怖いので
なんとか少しずつ、慎重に、
ゆっくり引き抜こうと試みる。
今度はかなりまずい。
斧の刃が折れたかもしれない。
前にも一度、『加減』を間違えて
斧を壊してしまった時には、随分とひどい折檻を受けた。
殴られる事も、
真冬の倉の寒さにも慣れてはきたが
食事を抜かれることだけは、なかなかつらい。
なので今の斧は、欠けたり歪んだりしながらも
なんとか騙し騙し使ってきたが
もし刃が根元から折れてしまったら
どうしようもない。
頼むから欠けるだけであってくれと
祈る様な気持ちで、一気に斧を引き抜いた。
刃先を真っ先に確認する。
ああよかった。
欠けが広がったが、根元に亀裂は入っていない。
次はもう少しうまく加減をしよう
と、ぼんやり安堵した。
その時だった。
「小僧。面白い事をやっているなぁ」
見知らぬ声が、頭の上から降ってきた。
-------
退屈で死にそうだ。
やはり田舎になんぞ来るものではない。
『魔境』や国境に近い『境界』ならともかく、
『魔境』からも、中央都市部からも中途半端に遠いこの『中空』地域は、
いい意味では平和。
悪い意味では平凡。
早い話が特筆すべきものが何もない
ド田舎であった。
『中空』地域では中央と『境界』を結ぶ街道や橋が数多く整備されてはいるが、基本的に素通りするだけのエリアである。
特に、この岩と雪で覆われた東部・山間部は
昔は宿場町として栄えたらしいが、
『東の大魔境』が広がって以来、東からの交通はほぼ途絶えており、年々寂れていく一方だという。
いつもなら『魔境』と『境界』の視察が終われば、さっさと中央に戻っているのだが。
戻ったら戻ったで、側近共が山ほど用意しているであろう面倒な書類との格闘を思い出し、
ふと気まぐれに。現実逃避も兼ねて。
『中空』地域の視察をしようと
思い立ったのがいけなかった。
・・・・・・・退屈だ。
本当に
本当に何もない、この田舎町は。
我が身の仰々しい警護すら間抜けに思えてきたので、早々に馬車を降り、徒歩で歩き出したのが20分ほど前のこと。
独りで歩く、ついて来るな
という俺の命令を鮮やかにスルーして
後ろから静かに、わずかに距離をとりながら
ロディエルとモーガンの二人が随伴している。
しかし気配と足音を消すのが巧みなこの二名は、俺の散歩の気を散らすようなことはしない。
なので、好きなようにさせている。
空は白く、低い。
薄曇りの天気が、冬の冷気を
町ごと閉じ込めているような空気だった。
辺りは静かで、昼間だというのに人通りはない。
町の目抜き通りでさえ、雪を踏み締める俺の足音以外は何も聞こえない有り様だった。
本当に人が暮しているのか?
あまりのゴーストタウンっぷりに、
いよいよ最後の興味も尽きかけた
その時だった。
薪を割る音がする。
普段ならどうという事は無い生活音だが、
この静寂の中ではひと際存在感を放つ音だっただけに、自然と音のする方向へ、足が向いていた。
古びた屋敷の、裏庭の一角。
痩せっぽちの子供がひとり。
この寒空の下、黙々と薪を割り続けていた。
真冬だというのに、襟巻はおろか上着すら羽織っていない。
粗末な靴には、雪と泥がしみ込んでおり
召使いというより、殆ど奴隷に近い格好だ。
カンッ
と薪を割る、軽快な音が響く。
この薪割り小僧と俺との距離は、
もはや5mも離れてはいなかったが
よほど作業に没頭しているのか、小僧がこちらに気付く様子はない。
慣れた手つきで薪を拾い、
斧を振り上げ、
小気味よいテンポで割っていく。
機械的なその作業を、しばらく眺めていた。
ふと、 違和感を覚える。
小僧は淡々と、淀みなく薪を割り続けている。
辺りに転がっている薪は見事に両断されており、
その断面は、鋭利な刃物で切られたことを物語る様に滑らかに光っていた。
しかし、
先程から小僧が振り上げている
その『斧』は
風雨による赤錆と
ノコギリのように欠けた、刃先。
とても用を為さないシロモノであった。
「・・・・・」
背後に控えたロディエルとモーガンが、
静かに、感嘆の眼差しで
小僧を眺めている気配を感じる。
こいつらも、どこにでもいるようなこの薄汚れた小僧が『相当達者な芸当』をやっていると理解したのだろう。
ベギッ
先程とは打って変わった鈍い音と共に
小僧の動きが止まる。
どうやら『加減』を誤ったらしい。
焦った様子で、切り株に深く食い込んでしまった斧を引き抜こうと格闘している。
何も無いと思っていた田舎町で、
思わぬ収穫が舞い込んできたようだ。
俄然興味が湧いてきた俺は
『視察対象』をこの小僧のみに絞ることを決めた。
「小僧、面白い事をやっているなぁ」
畳む
#VLAD

それはまるで
物語に出てくる『魔王』のようだった。
---------
ベギッ
凍てついた冬の空気にふさわしくない、
鈍く裂けた音が響く。
と同時に、斧を握った手元には嫌な感触が伝わった。
ああ…またやってしまった。
今日で何度目になるかわからない溜息をつきながら、切り株に深く突き立った斧と懸命に格闘する。
引き抜こうと藻掻く度に、
切り株はメキメキ…と軋みを立てた。
深い溝があちこちに刻まれたその姿は、
なんだか自分の姿を見ているようで同情を覚える。
斧はなかなか抜けない。
強く力をかけようにも、斧が壊れる事の方が怖いので
なんとか少しずつ、慎重に、
ゆっくり引き抜こうと試みる。
今度はかなりまずい。
斧の刃が折れたかもしれない。
前にも一度、『加減』を間違えて
斧を壊してしまった時には、随分とひどい折檻を受けた。
殴られる事も、
真冬の倉の寒さにも慣れてはきたが
食事を抜かれることだけは、なかなかつらい。
なので今の斧は、欠けたり歪んだりしながらも
なんとか騙し騙し使ってきたが
もし刃が根元から折れてしまったら
どうしようもない。
頼むから欠けるだけであってくれと
祈る様な気持ちで、一気に斧を引き抜いた。
刃先を真っ先に確認する。
ああよかった。
欠けが広がったが、根元に亀裂は入っていない。
次はもう少しうまく加減をしよう
と、ぼんやり安堵した。
その時だった。
「小僧。面白い事をやっているなぁ」
見知らぬ声が、頭の上から降ってきた。
-------
退屈で死にそうだ。
やはり田舎になんぞ来るものではない。
『魔境』や国境に近い『境界』ならともかく、
『魔境』からも、中央都市部からも中途半端に遠いこの『中空』地域は、
いい意味では平和。
悪い意味では平凡。
早い話が特筆すべきものが何もない
ド田舎であった。
『中空』地域では中央と『境界』を結ぶ街道や橋が数多く整備されてはいるが、基本的に素通りするだけのエリアである。
特に、この岩と雪で覆われた東部・山間部は
昔は宿場町として栄えたらしいが、
『東の大魔境』が広がって以来、東からの交通はほぼ途絶えており、年々寂れていく一方だという。
いつもなら『魔境』と『境界』の視察が終われば、さっさと中央に戻っているのだが。
戻ったら戻ったで、側近共が山ほど用意しているであろう面倒な書類との格闘を思い出し、
ふと気まぐれに。現実逃避も兼ねて。
『中空』地域の視察をしようと
思い立ったのがいけなかった。
・・・・・・・退屈だ。
本当に
本当に何もない、この田舎町は。
我が身の仰々しい警護すら間抜けに思えてきたので、早々に馬車を降り、徒歩で歩き出したのが20分ほど前のこと。
独りで歩く、ついて来るな
という俺の命令を鮮やかにスルーして
後ろから静かに、わずかに距離をとりながら
ロディエルとモーガンの二人が随伴している。
しかし気配と足音を消すのが巧みなこの二名は、俺の散歩の気を散らすようなことはしない。
なので、好きなようにさせている。
空は白く、低い。
薄曇りの天気が、冬の冷気を
町ごと閉じ込めているような空気だった。
辺りは静かで、昼間だというのに人通りはない。
町の目抜き通りでさえ、雪を踏み締める俺の足音以外は何も聞こえない有り様だった。
本当に人が暮しているのか?
あまりのゴーストタウンっぷりに、
いよいよ最後の興味も尽きかけた
その時だった。
薪を割る音がする。
普段ならどうという事は無い生活音だが、
この静寂の中ではひと際存在感を放つ音だっただけに、自然と音のする方向へ、足が向いていた。
古びた屋敷の、裏庭の一角。
痩せっぽちの子供がひとり。
この寒空の下、黙々と薪を割り続けていた。
真冬だというのに、襟巻はおろか上着すら羽織っていない。
粗末な靴には、雪と泥がしみ込んでおり
召使いというより、殆ど奴隷に近い格好だ。
カンッ
と薪を割る、軽快な音が響く。
この薪割り小僧と俺との距離は、
もはや5mも離れてはいなかったが
よほど作業に没頭しているのか、小僧がこちらに気付く様子はない。
慣れた手つきで薪を拾い、
斧を振り上げ、
小気味よいテンポで割っていく。
機械的なその作業を、しばらく眺めていた。
ふと、 違和感を覚える。
小僧は淡々と、淀みなく薪を割り続けている。
辺りに転がっている薪は見事に両断されており、
その断面は、鋭利な刃物で切られたことを物語る様に滑らかに光っていた。
しかし、
先程から小僧が振り上げている
その『斧』は
風雨による赤錆と
ノコギリのように欠けた、刃先。
とても用を為さないシロモノであった。
「・・・・・」
背後に控えたロディエルとモーガンが、
静かに、感嘆の眼差しで
小僧を眺めている気配を感じる。
こいつらも、どこにでもいるようなこの薄汚れた小僧が『相当達者な芸当』をやっていると理解したのだろう。
ベギッ
先程とは打って変わった鈍い音と共に
小僧の動きが止まる。
どうやら『加減』を誤ったらしい。
焦った様子で、切り株に深く食い込んでしまった斧を引き抜こうと格闘している。
何も無いと思っていた田舎町で、
思わぬ収穫が舞い込んできたようだ。
俄然興味が湧いてきた俺は
『視察対象』をこの小僧のみに絞ることを決めた。
「小僧、面白い事をやっているなぁ」
畳む
あなたとわたし

マギの一族が歌う、有名な歌のひとつ。
いつから伝わっているものかは不明。
恋人のことを唄っているようでもあり、
友のことを唄っているようでもある。
--------------------
あなたがわたしを信じてなくても
わたしはあなたを信じている
あなたが何度も道を違えて
あなたが何度も淵に落ちても
わたしは何度も
あなたの彷徨う腕に手を伸ばす
どうか忘れないでほしい
わたしは何も憎んではいない
どんなに深く永い夜道も
わたしはあなたと共に切り拓いてきた
ただあなたの長い慟哭が止むことを
ただあなたの温かい祈りが届くことを
霞みも眠るような 深い花畑から願いながら
やがて訪れる月の狭間で
あなたはただ 信じるだけでいい
その日 わたしはやっと旅発つ
あなたに囁くようなさよならを言って
わたしはあなたのもとを去り
あなたは長い旅を終える
あなたが何度も同じ道を巡り
あなたが何度も後悔と出会った事
きっとわたしだけが知っていて
きっとあなたも同じことを思った
いずれわたしが全てを忘れて
あなたと再び出会ったら
どうかまた
あの日と同じ名前で呼んでほしい
そしてわたしは今度こそ
あなたの手をしっかり握って
あなたに挨拶が言えるのだから
あなたと明日へ行けるのだから
畳む
#王と皇帝

マギの一族が歌う、有名な歌のひとつ。
いつから伝わっているものかは不明。
恋人のことを唄っているようでもあり、
友のことを唄っているようでもある。
--------------------
あなたがわたしを信じてなくても
わたしはあなたを信じている
あなたが何度も道を違えて
あなたが何度も淵に落ちても
わたしは何度も
あなたの彷徨う腕に手を伸ばす
どうか忘れないでほしい
わたしは何も憎んではいない
どんなに深く永い夜道も
わたしはあなたと共に切り拓いてきた
ただあなたの長い慟哭が止むことを
ただあなたの温かい祈りが届くことを
霞みも眠るような 深い花畑から願いながら
やがて訪れる月の狭間で
あなたはただ 信じるだけでいい
その日 わたしはやっと旅発つ
あなたに囁くようなさよならを言って
わたしはあなたのもとを去り
あなたは長い旅を終える
あなたが何度も同じ道を巡り
あなたが何度も後悔と出会った事
きっとわたしだけが知っていて
きっとあなたも同じことを思った
いずれわたしが全てを忘れて
あなたと再び出会ったら
どうかまた
あの日と同じ名前で呼んでほしい
そしてわたしは今度こそ
あなたの手をしっかり握って
あなたに挨拶が言えるのだから
あなたと明日へ行けるのだから
畳む
#王と皇帝
#掌の記憶

いいかい? ドリー
ここから先は お前ひとりで行きなさい
ああ怖いね よくわかるよ
でもお前はつよい子だ 必ず行けるよ
よくお聞き
その横穴を ひたすら真っすぐに進むんだ
やがて湖に出るから
そこにあるフクロウの祠は知っているね?
中にある 守り神さまの前で
じっとしていなさい
母上はもう先に行ったから
私が行くまで お前が母上を守るんだよ いいね?
さぁ バロンも一緒だ 寂しくはないよ
私のことは心配いらない
何があっても 何が聴こえても
決してここに 戻ってはいけない
さぁ…
・・・・・・・・・
ドレイク お前は素晴らしい子だ
いつかこの先 どんなに怖くても
大事な人の為に
立ち向かわなくてはならない日が きっと来る
その『力』は それまでとっておきなさい
そして その日が訪れたら
迷うことなく その『力』を使いなさい
さぁお行き 強く勇敢な 私の孫よ
また後で
必ず会おう
畳む

いいかい? ドリー
ここから先は お前ひとりで行きなさい
ああ怖いね よくわかるよ
でもお前はつよい子だ 必ず行けるよ
よくお聞き
その横穴を ひたすら真っすぐに進むんだ
やがて湖に出るから
そこにあるフクロウの祠は知っているね?
中にある 守り神さまの前で
じっとしていなさい
母上はもう先に行ったから
私が行くまで お前が母上を守るんだよ いいね?
さぁ バロンも一緒だ 寂しくはないよ
私のことは心配いらない
何があっても 何が聴こえても
決してここに 戻ってはいけない
さぁ…
・・・・・・・・・
ドレイク お前は素晴らしい子だ
いつかこの先 どんなに怖くても
大事な人の為に
立ち向かわなくてはならない日が きっと来る
その『力』は それまでとっておきなさい
そして その日が訪れたら
迷うことなく その『力』を使いなさい
さぁお行き 強く勇敢な 私の孫よ
また後で
必ず会おう
畳む
カジマヤ
#VLAD

それはまるで かざぐるまのように咲く
【カジマヤ】
玩具の『かざぐるま』のような形をした花。
四枚の大きな花弁が特徴。
花言葉は『子守歌』
『マギの一族』には
この花が登場する古い言い伝えがある。
この世にまだ神々が存在していた時代
天より降りてきた炎の荒神が
地上を焼き尽くそうとした
このとき、神に仕える一族が
荒神を鎮めるために
赤子をひとり 生贄として差し出した
生贄によって荒神は鎮まり
地上の人々は救われたが
赤子の母親は
亡き我が子の魂を慰めるために
赤子と最期に別れた地に”かざぐるま”を立てた
一年 また一年と
赤子が生きる筈だった年を過ぎる度に
”かざぐるま”を供え
その数が20を超える頃には
供えられた”かざぐるま”は
まるで花畑のように見えたという
その後 長い年月が流れ
供えられた”かざぐるま”も
朽ちて無くなるほどの時が過ぎた頃
もはや誰も訪れることの無いその地に
あるはずのない”かざぐるま”が供えられている
しかしよく見るとそれは
”かざぐるま”によく似た花であり
今でも母子を慰めるように咲き続けているという
この言い伝えから、一部の地域では
亡くなった子供の墓に『カジマヤ』を供える習わしがあるが、
一般的には 『子を想う母の花』
というニュアンスの方が強く
母親が我が子の健やかな成長を願って、贈られることが多いという。
畳む
#VLAD

それはまるで かざぐるまのように咲く
【カジマヤ】
玩具の『かざぐるま』のような形をした花。
四枚の大きな花弁が特徴。
花言葉は『子守歌』
『マギの一族』には
この花が登場する古い言い伝えがある。
この世にまだ神々が存在していた時代
天より降りてきた炎の荒神が
地上を焼き尽くそうとした
このとき、神に仕える一族が
荒神を鎮めるために
赤子をひとり 生贄として差し出した
生贄によって荒神は鎮まり
地上の人々は救われたが
赤子の母親は
亡き我が子の魂を慰めるために
赤子と最期に別れた地に”かざぐるま”を立てた
一年 また一年と
赤子が生きる筈だった年を過ぎる度に
”かざぐるま”を供え
その数が20を超える頃には
供えられた”かざぐるま”は
まるで花畑のように見えたという
その後 長い年月が流れ
供えられた”かざぐるま”も
朽ちて無くなるほどの時が過ぎた頃
もはや誰も訪れることの無いその地に
あるはずのない”かざぐるま”が供えられている
しかしよく見るとそれは
”かざぐるま”によく似た花であり
今でも母子を慰めるように咲き続けているという
この言い伝えから、一部の地域では
亡くなった子供の墓に『カジマヤ』を供える習わしがあるが、
一般的には 『子を想う母の花』
というニュアンスの方が強く
母親が我が子の健やかな成長を願って、贈られることが多いという。
畳む






クロ(9六)
シロ(4六)
ハス
畳む
#三匹の鬼
#KIBITO
#人物紹介