小話 2026/03/09 Mon 嵐を待つ #王と皇帝 どうしたんだい お姫様 今日はまたひどく悲しそうだね 「…もう駄目だ、タティアナ。 今度こそお終いだ…」 おやおや 穏やかじゃないね 落ち着いて 何があったのか 話してごらん? 続きを読む 「父が…我が国が、オルテギアの属領を侵した。 事実上、宣戦布告だ…」 それはまた 随分と思い切ったことをしたものだね あの愚かな王は 他国にでも焚き付けられたのかな? 「恐らくな… あの単細胞のことだ。おおかた ”十王を喪った帝国など恐るるに足らず” などと、調子の良いセリフで 担ぎ上げられたに違いない。 お前の力を、大いに見せつけてやると 言わんばかりの有り様だった」 やれやれ 買い被られたものだね私も 帝国だって咎人の一体や二体 飼い慣らしているだろうに 「⋯だからタティアナ。 今夜でお前との契約を切る。 急いで、ここを離れてくれ」 ・・・・・・ 「今度の相手は悪すぎる。 どう考えても太刀打ちできる相手じゃない。 こんな小国が帝国に…勝てるわけないのに…!」 ・・・・・・・・・・・・ 「こんな国に居続けても お前の望みに叶う魔法使いなんて 永遠に現れはしない。 だから今日は…お別れを言いに来たんだ」 お姫様 「随分と長い間、私の泣き言に 付き合わせてしまったな… せめてものお詫びだ。 なんとか80秒だけ呪縛を解く。 その間にどうか、行ってくれ。」 お姫様 私はね 「そうだ。いっそ次は帝国と契約したらいい。 帝国ならきっと お前の望みを叶えてくれる魔法使いが、」 私はこの“タティアナ”という名前が とても気に入っているんだ 「・・・・・・!」 私にはもう 生前の記憶はほぼ 残っていないが 少なくとも これまでに これほど親しみを込めて 誰かに呼ばれたことは 無かった 私はもう かつての私の名など 思い出せなくて良い 貴女が大好きだった 乳母の名前を 私に授けてくれた あの日から この先も 私の契約者は貴女だけだよ エスメラルダ 「・・・・・・・・・・・・っ」 泣かないで 優しいお姫様 貴女は何も悪くない 大丈夫 何も心配いらない 私にはわかる 全てがきっと うまくいくよ ------- そう この子は何も悪くない。 魔法の才が、この国の誰よりもあったが為に 愚かな父親に利用された哀れな娘だ。 ああ、自由の効かぬ我が身が忌々しい。 せめて『角』でも戻れば、 この子を苦しめるあの男を 一瞬で“床のシミ”に変えてやれるものを。 でも心配しなくていい、お姫様。 じきに大きな嵐が来る。 この暗い鳥籠を 一瞬で打ち砕くような 大きな嵐が。 畳む
#王と皇帝
どうしたんだい お姫様
今日はまたひどく悲しそうだね
「…もう駄目だ、タティアナ。
今度こそお終いだ…」
おやおや 穏やかじゃないね
落ち着いて
何があったのか 話してごらん?
「父が…我が国が、オルテギアの属領を侵した。
事実上、宣戦布告だ…」
それはまた
随分と思い切ったことをしたものだね
あの愚かな王は
他国にでも焚き付けられたのかな?
「恐らくな…
あの単細胞のことだ。おおかた
”十王を喪った帝国など恐るるに足らず”
などと、調子の良いセリフで
担ぎ上げられたに違いない。
お前の力を、大いに見せつけてやると
言わんばかりの有り様だった」
やれやれ
買い被られたものだね私も
帝国だって咎人の一体や二体
飼い慣らしているだろうに
「⋯だからタティアナ。
今夜でお前との契約を切る。
急いで、ここを離れてくれ」
・・・・・・
「今度の相手は悪すぎる。
どう考えても太刀打ちできる相手じゃない。
こんな小国が帝国に…勝てるわけないのに…!」
・・・・・・・・・・・・
「こんな国に居続けても
お前の望みに叶う魔法使いなんて
永遠に現れはしない。
だから今日は…お別れを言いに来たんだ」
お姫様
「随分と長い間、私の泣き言に
付き合わせてしまったな…
せめてものお詫びだ。
なんとか80秒だけ呪縛を解く。
その間にどうか、行ってくれ。」
お姫様 私はね
「そうだ。いっそ次は帝国と契約したらいい。
帝国ならきっと
お前の望みを叶えてくれる魔法使いが、」
私はこの“タティアナ”という名前が
とても気に入っているんだ
「・・・・・・!」
私にはもう
生前の記憶はほぼ 残っていないが
少なくとも これまでに
これほど親しみを込めて
誰かに呼ばれたことは 無かった
私はもう かつての私の名など
思い出せなくて良い
貴女が大好きだった 乳母の名前を
私に授けてくれた あの日から
この先も
私の契約者は貴女だけだよ
エスメラルダ
「・・・・・・・・・・・・っ」
泣かないで 優しいお姫様
貴女は何も悪くない
大丈夫 何も心配いらない
私にはわかる
全てがきっと うまくいくよ
-------
そう
この子は何も悪くない。
魔法の才が、この国の誰よりもあったが為に
愚かな父親に利用された哀れな娘だ。
ああ、自由の効かぬ我が身が忌々しい。
せめて『角』でも戻れば、
この子を苦しめるあの男を
一瞬で“床のシミ”に変えてやれるものを。
でも心配しなくていい、お姫様。
じきに大きな嵐が来る。
この暗い鳥籠を
一瞬で打ち砕くような
大きな嵐が。
畳む