光雨
#王と皇帝

あの時のことは よく覚えていない
思い出せるのは
ただ真っ暗で
息苦しく
出たいともがく気力すら
根こそぎ奪うような 闇と
底なしの沼に
沈んでいくような 感覚
ああ わたし 死ぬんだわ と
それだけははっきり 自覚できた
何度か
お姉様の声を 聴いたような気がしたけれど
とても遠くて 戻れない
ごめんなさい お姉様
いつも足を引っ張って ごめんなさい
でも わたしがいなくなったら
お姉様 自由になれるかしら
この国を離れて
ずっとずっと遠くに 行けるのかしら
それも悪くないかもしれないと
思いながら
最後の意識を閉じようとした その時
まるで光のように
暖かい雨が 降ってきた
畳む
#王と皇帝

あの時のことは よく覚えていない
思い出せるのは
ただ真っ暗で
息苦しく
出たいともがく気力すら
根こそぎ奪うような 闇と
底なしの沼に
沈んでいくような 感覚
ああ わたし 死ぬんだわ と
それだけははっきり 自覚できた
何度か
お姉様の声を 聴いたような気がしたけれど
とても遠くて 戻れない
ごめんなさい お姉様
いつも足を引っ張って ごめんなさい
でも わたしがいなくなったら
お姉様 自由になれるかしら
この国を離れて
ずっとずっと遠くに 行けるのかしら
それも悪くないかもしれないと
思いながら
最後の意識を閉じようとした その時
まるで光のように
暖かい雨が 降ってきた
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嵐を待つ
#王と皇帝

どうしたんだい お姫様
今日はまたひどく悲しそうだね
「…もう駄目だ、タティアナ。
今度こそお終いだ…」
おやおや 穏やかじゃないね
落ち着いて
何があったのか 話してごらん?
「父が…我が国が、オルテギアの属領を侵した。
事実上、宣戦布告だ…」
それはまた
随分と思い切ったことをしたものだね
あの愚かな王は
他国にでも焚き付けられたのかな?
「恐らくな…
あの単細胞のことだ。おおかた
”十王を喪った帝国など恐るるに足らず”
などと、調子の良いセリフで
担ぎ上げられたに違いない。
お前の力を、大いに見せつけてやると
言わんばかりの有り様だった」
やれやれ
買い被られたものだね私も
帝国だって咎人の一体や二体
飼い慣らしているだろうに
「⋯だからタティアナ。
今夜でお前との契約を切る。
急いで、ここを離れてくれ」
・・・・・・
「今度の相手は悪すぎる。
どう考えても太刀打ちできる相手じゃない。
こんな小国が帝国に…勝てるわけないのに…!」
・・・・・・・・・・・・
「こんな国に居続けても
お前の望みに叶う魔法使いなんて
永遠に現れはしない。
だから今日は…お別れを言いに来たんだ」
お姫様
「随分と長い間、私の泣き言に
付き合わせてしまったな…
せめてものお詫びだ。
なんとか80秒だけ呪縛を解く。
その間にどうか、行ってくれ。」
お姫様 私はね
「そうだ。いっそ次は帝国と契約したらいい。
帝国ならきっと
お前の望みを叶えてくれる魔法使いが、」
私はこの“タティアナ”という名前が
とても気に入っているんだ
「・・・・・・!」
私にはもう
生前の記憶はほぼ 残っていないが
少なくとも これまでに
これほど親しみを込めて
誰かに呼ばれたことは 無かった
私はもう かつての私の名など
思い出せなくて良い
貴女が大好きだった 乳母の名前を
私に授けてくれた あの日から
この先も
私の契約者は貴女だけだよ
エスメラルダ
「・・・・・・・・・・・・っ」
泣かないで 優しいお姫様
貴女は何も悪くない
大丈夫 何も心配いらない
私にはわかる
全てがきっと うまくいくよ
-------
そう
この子は何も悪くない。
魔法の才が、この国の誰よりもあったが為に
愚かな父親に利用された哀れな娘だ。
ああ、自由の効かぬ我が身が忌々しい。
せめて『角』でも戻れば、
この子を苦しめるあの男を
一瞬で“床のシミ”に変えてやれるものを。
でも心配しなくていい、お姫様。
じきに大きな嵐が来る。
この暗い鳥籠を
一瞬で打ち砕くような
大きな嵐が。
畳む
#王と皇帝

どうしたんだい お姫様
今日はまたひどく悲しそうだね
「…もう駄目だ、タティアナ。
今度こそお終いだ…」
おやおや 穏やかじゃないね
落ち着いて
何があったのか 話してごらん?
「父が…我が国が、オルテギアの属領を侵した。
事実上、宣戦布告だ…」
それはまた
随分と思い切ったことをしたものだね
あの愚かな王は
他国にでも焚き付けられたのかな?
「恐らくな…
あの単細胞のことだ。おおかた
”十王を喪った帝国など恐るるに足らず”
などと、調子の良いセリフで
担ぎ上げられたに違いない。
お前の力を、大いに見せつけてやると
言わんばかりの有り様だった」
やれやれ
買い被られたものだね私も
帝国だって咎人の一体や二体
飼い慣らしているだろうに
「⋯だからタティアナ。
今夜でお前との契約を切る。
急いで、ここを離れてくれ」
・・・・・・
「今度の相手は悪すぎる。
どう考えても太刀打ちできる相手じゃない。
こんな小国が帝国に…勝てるわけないのに…!」
・・・・・・・・・・・・
「こんな国に居続けても
お前の望みに叶う魔法使いなんて
永遠に現れはしない。
だから今日は…お別れを言いに来たんだ」
お姫様
「随分と長い間、私の泣き言に
付き合わせてしまったな…
せめてものお詫びだ。
なんとか80秒だけ呪縛を解く。
その間にどうか、行ってくれ。」
お姫様 私はね
「そうだ。いっそ次は帝国と契約したらいい。
帝国ならきっと
お前の望みを叶えてくれる魔法使いが、」
私はこの“タティアナ”という名前が
とても気に入っているんだ
「・・・・・・!」
私にはもう
生前の記憶はほぼ 残っていないが
少なくとも これまでに
これほど親しみを込めて
誰かに呼ばれたことは 無かった
私はもう かつての私の名など
思い出せなくて良い
貴女が大好きだった 乳母の名前を
私に授けてくれた あの日から
この先も
私の契約者は貴女だけだよ
エスメラルダ
「・・・・・・・・・・・・っ」
泣かないで 優しいお姫様
貴女は何も悪くない
大丈夫 何も心配いらない
私にはわかる
全てがきっと うまくいくよ
-------
そう
この子は何も悪くない。
魔法の才が、この国の誰よりもあったが為に
愚かな父親に利用された哀れな娘だ。
ああ、自由の効かぬ我が身が忌々しい。
せめて『角』でも戻れば、
この子を苦しめるあの男を
一瞬で“床のシミ”に変えてやれるものを。
でも心配しなくていい、お姫様。
じきに大きな嵐が来る。
この暗い鳥籠を
一瞬で打ち砕くような
大きな嵐が。
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天堕つる
#王と皇帝

今でも、電話は苦手だ。
「…殿下」
『・・・・・』
「ブラムド殿下」
『ん?…ああ、悪い。
もう下げていいぞ。』
「・・・・」
『さて…急いで本国に戻らないと…だな。
至急、手配を頼む』
「よろしいのですか?」
『何がだ?』
「本当に…お戻りになられるのですか?」
『・・・・・。』
「・・・・・・・・・・。」
『何を言っている…当り前だ。
俺の家だぞ?』
「…かしこまりました。」
『ふぅ…飛空艇の準備が整い次第、俺はすぐに発つ。
時間が無いから、細かい荷や使用人は後発の便で戻れ。
アドゥミラ公にはまだ…
いや、伏せておくのは難しいか。
あの方には先に、お伝えしておこう。
行くぞ』
「御意」
『なぁ、ビクター。』
「…なんだ?」
『近頃な、 ”葬式慣れ”してきている、冷静な自分がいてな。
…嫌になるよ。』
「気にするな。俺も似たようなものだ。」
『そうか。』
「慣れた方がラクになる事もある。
俺はそれを、悪い事だとは思わない。」
『…そうか。』

あの日のことは、よく覚えている
朝からずっと 母が泣いていたからだ
いつも穏やかに微笑んでいる母が
ひどく泣き叫んでいる姿を見るのは初めてで
祖父が母の隣に寄り添って
慰めている様子を眺めながら
僕は何も出来ずに、立ちすくんでいた
僕の存在に気付くと
母はますます悲しそうな顔をして
僕をぎゅっと抱きしめたまま、泣き続けた
僕はわけがわからないまま
ははうえ どうしたの
どこかいたいの?
だいじょうぶ?
ねぇ なかないで ははうえ
などと、言っていたような気がする
母は
どこも痛くないの
ただ 私のとても大切な人が
とても遠くにいってしまったの
とても とおくに いってしまったのよ
そう言って、ますます僕を強く抱きしめるので
ははうえ ぼくがいるよ
ぼくがずっと ははうえのそばにいる
ぜったい とおくにいかないよ
ね? だからなかないで
そうだ
僕はあの時、母に約束したのだった
絶対に 貴女を独りにしないと
なのに
・・・・・・・・
今思えば あの日から
僕の運命は狂いだした
---------------------------
バルムンク、崩御。
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ファイナルアンサー
#VLAD

何度出会っても思う
私は、この笑顔が大嫌いだ
「彼ら」が、この時に浮かべるその笑顔は
私にとって、常に「決別の証」であり
どんな別れの言葉よりも雄弁に
私の手を 静かに払いのける
#VLAD

何度出会っても思う
私は、この笑顔が大嫌いだ
「彼ら」が、この時に浮かべるその笑顔は
私にとって、常に「決別の証」であり
どんな別れの言葉よりも雄弁に
私の手を 静かに払いのける
楽園の記憶
#VLAD

きっと誰もが、脳裏の片隅に
蜃気楼のような『楽園』を持っているのだろう。
当時、『それ』とは気付きもしなかった
『楽園の記憶』が。
それが今も『お前』を押し進めている。
もはや後戻りが出来ない所まで
深く遠くに、な。
それこそが、
いや、それだけが
『お前』を『お前』たらしめる
唯一なのだろう。
俺にも『楽園の記憶』がある。
もうずっと昔に失ったあの『楽園』が
何度も何度も、俺を守った。
だから 『お前』の気持ちはよくわかる。
『楽園』を失った痛みも
そして取り戻したい気持ちもな。
だからこそ、一緒には行けない。
『お前』は『あいつ』を生贄にして
俺を修羅の道連れにしたかったんだろうが
生憎と、『あいつ』が俺に残した
この
何に代えても埋まらない空洞が
辛うじて 俺を人間にした。
『楽園』は永遠ではない。
いつかは失う。
そして蜃気楼のように漂うのだ。
俺の中にも、『お前』の中にも。
そしてそれは
焦土の果てにまで行ける
『杖』となってくれるが
それ以上は、望めない。
いいか。
何度 地獄の底を生み出しても
それ以上は
望めないのだ。
賢い『お前』には
もうずっと以前からわかっていたはずだ。
『お前』は
『失った楽園』を取り戻す事ではなく、
『次の楽園』を探すべきだった。
そうすれば…
・・・・・・・
いや、説教は止そう。
何せ『お前』に俺の声は、
『とうの昔』に届かなくなっているのだし、
それに
もうシルヴィアからも、
『同じ説教』を貰ったんだろう?
いや、シルヴィアだけじゃない。
きっと『お前』は『俺たち』に
何度も こう言われたはずだ。
『共に行けない』 と。
笑って はっきり
フラれただろう?
悪いな。
今回も、同じ答えだ。
出来る事なら
『お前』を殺すのは
俺の役目でありたかったが
残念なことに 『時間切れ』だ。
いつか
『お前』の息の根を止める者が
いつか、この世に降りてくることを
あの 深い花畑から
切に願っているぞ
我が友よ
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#VLAD

きっと誰もが、脳裏の片隅に
蜃気楼のような『楽園』を持っているのだろう。
当時、『それ』とは気付きもしなかった
『楽園の記憶』が。
それが今も『お前』を押し進めている。
もはや後戻りが出来ない所まで
深く遠くに、な。
それこそが、
いや、それだけが
『お前』を『お前』たらしめる
唯一なのだろう。
俺にも『楽園の記憶』がある。
もうずっと昔に失ったあの『楽園』が
何度も何度も、俺を守った。
だから 『お前』の気持ちはよくわかる。
『楽園』を失った痛みも
そして取り戻したい気持ちもな。
だからこそ、一緒には行けない。
『お前』は『あいつ』を生贄にして
俺を修羅の道連れにしたかったんだろうが
生憎と、『あいつ』が俺に残した
この
何に代えても埋まらない空洞が
辛うじて 俺を人間にした。
『楽園』は永遠ではない。
いつかは失う。
そして蜃気楼のように漂うのだ。
俺の中にも、『お前』の中にも。
そしてそれは
焦土の果てにまで行ける
『杖』となってくれるが
それ以上は、望めない。
いいか。
何度 地獄の底を生み出しても
それ以上は
望めないのだ。
賢い『お前』には
もうずっと以前からわかっていたはずだ。
『お前』は
『失った楽園』を取り戻す事ではなく、
『次の楽園』を探すべきだった。
そうすれば…
・・・・・・・
いや、説教は止そう。
何せ『お前』に俺の声は、
『とうの昔』に届かなくなっているのだし、
それに
もうシルヴィアからも、
『同じ説教』を貰ったんだろう?
いや、シルヴィアだけじゃない。
きっと『お前』は『俺たち』に
何度も こう言われたはずだ。
『共に行けない』 と。
笑って はっきり
フラれただろう?
悪いな。
今回も、同じ答えだ。
出来る事なら
『お前』を殺すのは
俺の役目でありたかったが
残念なことに 『時間切れ』だ。
いつか
『お前』の息の根を止める者が
いつか、この世に降りてくることを
あの 深い花畑から
切に願っているぞ
我が友よ
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#くれない
「本当に行くつもり?」
『ああ』
「その子を置いて?」
『…ああ』
「・・・・・・」
『まだ納得いかない、か?』
「当たり前でしょ。
なんであんたがそんなことしなきゃならないのよ」
『そうだなぁ。
でも、誰かが行かなきゃいけない』
「・・・」
『ただ…この子のことは少し心配だな。
あの人にも乳母にも、ちっとも懐かなくて…
こうやって私が抱いていてやらないと、寝ないんだよ』
「将来…」
『ん?』
「将来、その子になんて説明するつもりなの?
あんたの事」
『んー…あの人とも相談したんだが…
病で死んだことにしようと思うんだ。
今回の事は全て秘密裏に処理されるそうだし、
周囲に対しても、それが一番自然な言い訳だろうって』
「世間はそう信じるでしょうね。
でも、その子に対しても
そんな嘘が本当に通用すると思ってるの?」
『・・・・・・』
「あんたも知ってるでしょう?
その子、腹立つぐらい賢いわ。
おまけにマザコンだしね。あんたの事を忘れるもんですか。
知恵が付いてくれば、嘘の違和感にも気付く。
いくら周囲が口を閉ざしても…
あの馬鹿の下手な嘘なんか、すぐにバレるに決まってる。
いつか必ず知ることになるわよ
自分の母親が、
何故
いなくなったのか」
『・・・・・・・』
「その時、その子がこの国を
呪うようなことにならなきゃいいわね。
今のわたしみたいに…」
『行くのか?』
「ええ。もうここには来ないわ」
『そう言うな。
たまには来て、この子の相手をしてやってくれないか?』
「………お断りよ。
さようなら、姉さん。
最後の最後まで、あんたは馬鹿ね。」
『さようなら、弟よ。
だが、何も後悔はないよ』
「…嘘ばっかり」
『ふふふふふ…』
『よしよし、私の可愛いぼうや。
おまえはいい子だ。
私がいなくても、ちゃんとねんねするんだぞ?
たくさん食べて、大きくおなり。
父君のいう事をよくきいて
強い強い、男になっておくれ。
そして、いつかまた・・・』
『どんな形でもいい
いつか、いつか必ず・・・
私に会いに来ておくれ。』
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