小話 2025/11/09 Sun 通り雨 #王と皇帝 渇きを癒して すぐ止んだ 私の愛しい通り雨 続きを読む ------------ 幼い頃、雨の日が大好きだった。 みなが家に籠もり、 町から人の気が無くなる薄暗い日。 誰もいない小道を 母といっしょに散歩できる唯一の日だった。 あの頃、僕にとって外の世界は 雨の世界が全てだった。 いつもは潜めている声も 雨の音が全て消してくれる。 僕をジロジロ見てくる人々も 雨が家の中へと封じ込めてくれる。 誰も見てくる人がいないから、 いつもは隠している眼で 空を見上げることもできた。 雨が 僕にわずかな自由を与えてくれた。 そのせいだろうか。 いつからか、僕がふと願うと 雨が降るようになった。 庭先の花が枯れそうになった時も。 隣の山で火事が起こった時も。 母と離れ離れになったあの日も。 僕を不安から守るかのように、雨が降った。 兄のもとで暮らすようになって すっかり背丈も伸びきった頃 雨は、ほとんど降らなくなっていた。 もうお守りはいらないのだと 弱い子供ではなくなったのだと そう思っていたのに 最近また 雨が、よく降る。 --------------------------- おまえは雨みたいな男だな そう言うと むかしから雨男なんだよ と返ってきた そういう意味で言ったつもりではなかったが うまく説明する言葉が見つからなかったので そのまま言い流すことにした 確かに、よく雨が降る 私が出かけようと思った時には、特に。 その度に奴は、 遣らずの雨だねぇ と、うれしそうにぬかすので こちらもすっかり 毒気を抜かれるのだ 本当に 雨みたいな男だった ---------------------------------- きっと一生、忘れることはない 漆黒の葬列に 似つかわしくない程の 紺碧の空 雲ひとつない快晴の日 わずかに震えていた父の手と まるで幻のように降った あの雨を ---------------------------------- 畳む
#王と皇帝
渇きを癒して すぐ止んだ
私の愛しい通り雨
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幼い頃、雨の日が大好きだった。
みなが家に籠もり、
町から人の気が無くなる薄暗い日。
誰もいない小道を
母といっしょに散歩できる唯一の日だった。
あの頃、僕にとって外の世界は
雨の世界が全てだった。
いつもは潜めている声も
雨の音が全て消してくれる。
僕をジロジロ見てくる人々も
雨が家の中へと封じ込めてくれる。
誰も見てくる人がいないから、
いつもは隠している眼で
空を見上げることもできた。
雨が
僕にわずかな自由を与えてくれた。
そのせいだろうか。
いつからか、僕がふと願うと
雨が降るようになった。
庭先の花が枯れそうになった時も。
隣の山で火事が起こった時も。
母と離れ離れになったあの日も。
僕を不安から守るかのように、雨が降った。
兄のもとで暮らすようになって
すっかり背丈も伸びきった頃
雨は、ほとんど降らなくなっていた。
もうお守りはいらないのだと
弱い子供ではなくなったのだと
そう思っていたのに
最近また
雨が、よく降る。
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おまえは雨みたいな男だな
そう言うと
むかしから雨男なんだよ
と返ってきた
そういう意味で言ったつもりではなかったが
うまく説明する言葉が見つからなかったので
そのまま言い流すことにした
確かに、よく雨が降る
私が出かけようと思った時には、特に。
その度に奴は、
遣らずの雨だねぇ
と、うれしそうにぬかすので
こちらもすっかり
毒気を抜かれるのだ
本当に
雨みたいな男だった
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きっと一生、忘れることはない
漆黒の葬列に
似つかわしくない程の
紺碧の空
雲ひとつない快晴の日
わずかに震えていた父の手と
まるで幻のように降った
あの雨を
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