通り雨渇きを癒して すぐ止んだ私の愛しい通り雨続きを読む------------幼い頃、雨の日が大好きだった。 みなが家に籠もり、町から人の気が無くなる薄暗い日。誰もいない小道を母といっしょに散歩できる唯一の日だった。あの頃、僕にとって外の世界は雨の世界が全てだった。いつもは潜めている声も雨の音が全て消してくれる。僕をジロジロ見てくる人々も雨が家の中へと封じ込めてくれる。誰も見てくる人がいないから、いつもは隠している眼で空を見上げることもできた。雨が僕にわずかな自由を与えてくれた。そのせいだろうか。いつからか、僕がふと願うと雨が降るようになった。庭先の花が枯れそうになった時も。隣の山で火事が起こった時も。母と離れ離れになったあの日も。僕を不安から守るかのように、雨が降った。兄のもとで暮らすようになってすっかり背丈も伸びきった頃雨は、ほとんど降らなくなっていた。もうお守りはいらないのだと弱い子供ではなくなったのだとそう思っていたのに最近また雨が、よく降る。---------------------------おまえは雨みたいな男だなそう言うとむかしから雨男なんだよと返ってきたそういう意味で言ったつもりではなかったがうまく説明する言葉が見つからなかったのでそのまま言い流すことにした確かに、よく雨が降る私が出かけようと思った時には、特に。その度に奴は、遣らずの雨だねぇと、うれしそうにぬかすのでこちらもすっかり毒気を抜かれるのだ本当に雨みたいな男だった----------------------------------きっと一生、忘れることはない漆黒の葬列に似つかわしくない程の紺碧の空雲ひとつない快晴の日わずかに震えていた父の手とまるで幻のように降ったあの雨を----------------------------------畳む 2025.11.9(Sun) 16:10:52 VLAD,ドレイク
渇きを癒して すぐ止んだ
私の愛しい通り雨
------------
幼い頃、雨の日が大好きだった。
みなが家に籠もり、
町から人の気が無くなる薄暗い日。
誰もいない小道を
母といっしょに散歩できる唯一の日だった。
あの頃、僕にとって外の世界は
雨の世界が全てだった。
いつもは潜めている声も
雨の音が全て消してくれる。
僕をジロジロ見てくる人々も
雨が家の中へと封じ込めてくれる。
誰も見てくる人がいないから、
いつもは隠している眼で
空を見上げることもできた。
雨が
僕にわずかな自由を与えてくれた。
そのせいだろうか。
いつからか、僕がふと願うと
雨が降るようになった。
庭先の花が枯れそうになった時も。
隣の山で火事が起こった時も。
母と離れ離れになったあの日も。
僕を不安から守るかのように、雨が降った。
兄のもとで暮らすようになって
すっかり背丈も伸びきった頃
雨は、ほとんど降らなくなっていた。
もうお守りはいらないのだと
弱い子供ではなくなったのだと
そう思っていたのに
最近また
雨が、よく降る。
---------------------------
おまえは雨みたいな男だな
そう言うと
むかしから雨男なんだよ
と返ってきた
そういう意味で言ったつもりではなかったが
うまく説明する言葉が見つからなかったので
そのまま言い流すことにした
確かに、よく雨が降る
私が出かけようと思った時には、特に。
その度に奴は、
遣らずの雨だねぇ
と、うれしそうにぬかすので
こちらもすっかり
毒気を抜かれるのだ
本当に
雨みたいな男だった
----------------------------------
きっと一生、忘れることはない
漆黒の葬列に
似つかわしくない程の
紺碧の空
雲ひとつない快晴の日
わずかに震えていた父の手と
まるで幻のように降った
あの雨を
----------------------------------
畳む