MEMO

創作語りとかラクガキ

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No.85

微睡みのうた
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朦朧とした意識の下で
最初に聴こえたのは歌だった。



何を歌っているのかはわからない。
ただ とてもきれいな声だったので、
ああ自分はとうとう死んでしまって
あの世に来たのだな
と、本気で思った。

自分が住んでいた世界に、
こんなきれいな声はどこにもなかったから。

だからきっと、この世ではない場所に来たのだろうと。

しかし、

次の瞬間に感じた鈍い痛みと
鉛のように重い身体の感覚が、とても現実味があって。

自分が生きていることに気付くと同時に
引きずり込まれるような絶望に襲われた。

まだ、自分は地獄の続きにいる。

死ねなかったのだ。

助けたのは、この傍らで歌っている人間だろうか。

どうして死なせてくれなかった
放っておいてくれたらよかったのに

そう言いたかったが、口から吐き出されたのは
砂の混じった、渇いた呼吸だけだった。

「ん?目が覚めた?」

歌が止むと同時に発せられた声は、
想像していたよりもずっと幼く、やさしい声だった。


『・・・・』


自分は答えなかった。

口が渇いて声が出ないこともあるが、
こういう時、どう答えていいのかが
わからなかったからだ。

「? ・・・~~~♪」

うわ言だと思ったのか、
声の主は再び歌いはじめた。

・・・・

かつて、自分の傍らで
こんな風に歌ってくれる人間がいただろうか。

あんなやさしい声で、
話しかけてくれた人間がいただろうか。

ただただ戸惑って
何故か泣けてきて

再び意識が沈むまで、そのやさしい歌を聴いていた。




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ヴラドとアダムの出会い編。

アダムは奴隷として飼われていた町から逃れて、砂漠で行き倒れ。
ヴラドはそのアダムを発見して介抱。

一人遊びの一環として、よく歌うヴラド。

アダムはこんな風に歌を聴かせてくれる人間が今までいなかったので、
ひたすら戸惑う。

そして大人になった頃、その時の感動を延々と語るアダム。
普段無口なくせに、こういう時は活き活きと喋るので
ヴラド忠愛っぷりがちょっと気持ち悪い。

ヴラドはこの手の話になると居心地悪くなって
最後にはキレる。

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VLAD,ヴラド