MEMO

創作語りとかラクガキ

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No.24

 重さ 

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…猫かこいつは。

 


目が覚めた瞬間、

足の自由がきかないことに焦りを覚えたが

目を開けた瞬間、飛び込んできた見慣れた寝顔に

 一気に肩の力が抜けた。


脅かしやがって・・・どおりで重いわけだ。


 自室に最高級の寝台が用意されているご身分でありながら、

 何を好きこのんでこいつは、ヒトの膝上で寝るのか。


はたき起こしてやろうかとも思ったが、

 心底安心しきっていると言わんばかりの寝顔に、

その気も失せた。


仕方ないので持っていた膝掛けを肩までかけてやり、

 奴の寝顔をまじまじと観察する。


 起きる気配はない。

 疲れているのだろう。深い寝息がそれを物語っている。


 まだ十にも満たぬ歳でありながら、

 帝国の統治を一手に担っているのだから無理もない。


 日中は絶えず鋭い眼光を放っている竜眼も

 今はまぶたの下だ。


 こうなると、そこらにいる他の子供と何ら変わりない。


 いや、 こうして無防備に眠っていなくとも

やはりこいつはただの子供だ。


稀代の天才と呼ばれようと

帝国の悪鬼と呼ばれようと

 十王継承者と祀り上げられようと


くだらねぇいたずらが好きな、ただのガキだ。

 少なくとも、私にとっては。


だから叱りもするし、ゲンコツも落とすし、

特別扱いなんぞしない。


 私のバルムンクへの対応に、

こころよく思っていない者が多い事も知っている。


 しかし、なんと言われようと変えるつもりは一切ない。

 そもそもドラグーンの連中に、指図される謂れもない。


私は私の意思だけに従う。


この国の連中のように

幼いこいつを、高すぎる御輿に担ぎあげるようなことはしない。

 孤高の玉座へ置き去りにするようなことはしない。


・・・・・・・・・・。


しかし、それももうすぐ叶わなくなるだろう。


私の意思も、

こいつの意思とも、関係無く。


 迫ってくる刻が、それを予感させた。


 最初は、手足の指先からだった。


徐々に握力を失い、

今ではわずかに動くのみで

触覚や痛覚は完全に死んでいる。


最近は寒さを感じなくなった。

暑さも、感じなくなった。



 日を追うごとに感じなくなる。

まるで石になっていくかのように。


 膝上で眠っている、こいつの温かさがわからない。


こいつが気まぐれに入れて寄越す、あの苦すぎたお茶の味がわからない。


 目が覚める度に、少しずつ何かを失っていることを自覚する。


 次に目が覚めた時は、起き上がる事も出来なくなるのではないか。

その恐怖で、もう横になっては眠れなくなった。


私はあとどれだけ、私でいられるのだろうか。


あとどれだけ、この『形』を保っていられるだろうか。


あとどれだけ



こいつを傍で見ていられるだろうか。




 ・・・・・・・・。



重いな。



以前は膝上で寝られると、足が痺れてしょうがなかったが

もう痺れる感覚すら、失ったようだ。


 感じるのは、ただ、重さのみ。


お前はこれから、もっと重くなっていくんだろうな。


この膝上に収まるような背丈でも、なくなるだろう。


私がそれを見ることは無いだろうから


 せめて今のお前の重さだけは


 しっかりと、覚えておこう。













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