カテゴリ「ブラムド」に属する投稿[3件]
#記録と記憶

あれはきっと
俺が初めて魔法を使った日
そして
初めて誰かに
呪いをかけた日
記録と記憶②
「・・・ねぇ、ちちうえ?」
『あー?』
「きょうは、ぼくに
『まほう』をおしえてくれる
やくそくだよね?」
『ああ、そうだとも。
それもとっておきのやつだからな。
準備も入念に…
必要なわけだ…っと。
よしよし、こんなもんだろう。』
「なにをしてたの?」
『結界を張った。
八層砦型・音絶式。
まぁーこの部屋自体が強固な結界みたいなもんだが
大袈裟すぎるぐらいがちょうどいい。
おっかないお目付け役の耳にでも届いたら大変だ。』
「・・・」
『さて、ブラムド。
部屋の中央にある【アレ】が気になっているご様子だな。
あれが何か、覚えているか?』
「まえに、ちちうえの
“けんきゅーしつ” でみた。」
『物覚えが良くて何よりだ。
【アレ】は今、
研究に使っている大事な実験サンプルでな。
俺は 【№8341】 と呼んでいる。』
「はち、さん…?」
『ま、覚えなくていい。
いいか?
ここからが重要でな、ブラムド』
『お前は以前、
【アレ】が自分の方を見ている、
と言っていた。
覚えているか?』
「うん。」
『…今でもそうか?』
「・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・
「…うん。」
『よしよし、では本題だ。
【アレ】は人みたいな形をしただけの
枯れ木に見えるが…
お前も感じているように…
おそらく何かの”念”が宿っている』
「ネン?」
『何かのきっかけで
心みたいなものが宿ったってことだ。
だがそれは吹けば消えるロウソクのように
小さく、不完全なものだ。
そして【アレ】は見ての通り
目もなければ口も無く
話す言葉すら持っていない。
【アレ】が何かを考えていても、
こっちには何も伝わらないし
わからない。』
「うん?」
『そこでだ、ブラムド。
【アレ】が、
自由におしゃべりできるようになる
【魔法】がある。
それを一緒に唱えてみないか。
それが今日、お前に教えてやる【魔法】だ。』
「!」
・・・・・・・・
「で、でも、ちちうえ。
ぼく、まほうの、えっと、
”りゅうげんご”???
とか、なにもしらないよ?」
『俺が唱える音を、そのまま真似すればいい。
なに、多少とちっても問題ない。
俺が補助してやるから大丈夫だ』
「でも、でもどうして
ちちうえがやらないの?
ぼくがやるより、
ずっとじょうずにできるんでしょ?」
『そうしたいのは山々なんだがな~
いろいろ事情があってな~~~~
思い出しても腹が立つ…』
「?」
『まぁとにかく、
何事もやってみるのが一番だ。
本読むだけのお勉強はつまらんだろう?』
「でも・・・」
『……おや?
まさか…
まさか息子よ………。
お前…怖くなったのか?』
「!」
『いやいや…確かに難しい魔法だ…
おまけに呪文も長いしな…
ふつーーーーーの5歳のお子様には
ぜっっったい無理だろうが
皇帝の息子であるお前なら…
もしかしたら…
出来るんじゃないかと結構…
期待したんだが…
仕方ない!
いや、何も恥じるな。
俺もお前を怖がらせたくはないからな。
…やめるか?』
「やる(゚Д゚)」
『いやいや…無理するなよ…。』
「や!る!(゚Д゚)#」
『おおっ!
そうか~やるのか~
さすが俺の息子だな~。』
--------------------------------------------
実にちょろいと思われたに違いない。
幼かったとはいえ、親父の安い挑発に乗った自分は
まんまと親父の思惑通りに
【式命術】を使う羽目になった。
--------------------------------------------
『いいか、ブラムド。
肝心なのは最初と最後だ。
他の詠唱はカバーしてやれるが、
最初と最後の【名前】だけは、
正確に、はっきりと発音しろ。』
「わかった。」
『ではおさらいだ。
最初に唱える【名前】は?』
「ぼくの【まこと名】。」
『最後に唱えるのは?』
「【あの子】につける名まえ。」
『完璧だ。
では、
始めるとしよう。』
--------------------------------------------
あとで知った事だが
『式命術』とは本来
魔獣を【使い魔】として隷属させる為に用いる
『名約』の術。
だが、用いる際の【禁止事項】が存在する。
『生物以外に使ってはならない』
『念の込められたものに使ってはならない』
ここでいう生物の定義は
『血の通った動物』のことであり
古い館
宝石
人形
壊れた道具
永く生長した植物
人が描かれた絵画や写真
過去、これらに『式命術』をかけた結果
『異様な者』が宿ってしまい、事故が起きた例が多数残っている。
そのことを、あの親父が知らないはずがない。
あのくそ親父
5歳の息子になんて危険なことさせやがると
怒りが湧いたものだ。
--------------------------------------------
『…此に敷かれるは天下る降臨の儀』
「われ、-------------の名において
うつろのうつわに ”名”をかんする」
『耳無き者は 音を知り』
「かおなきものは かたちを持ち」
『己無き者は 自らを得る』
「うぞうむぞうと」
『森羅万象の流れから』
『「この名をもって
これより汝は ただ汝となる
この名は汝の心臓
汝の冠
汝の魂となり
我と汝を結ぶ標
虚無の檻から解き放ち
水鏡映すその身を 汝と覚え
今ここに 祝福を降ろす
暁のように目覚めよ
-------。 」』
--------------------------------------------
術が成功したことは
幸運というべきか、不運というべきか。
今の『彼』を見る限りでは、
まだそれははっきりとはわからない。
これが親父のやりたかった
『実験』だったのだろうか。
その答えをいつか聞き出そうと思っていた矢先、
親父は驚くほどあっさり逝ってしまった。
・・・・・・。
親父の死後、
かつての研究室を漁り
【№8341】に関する記録をひたすら探してみたものの
とうとう何も見付からなかった。
畳む

あれはきっと
俺が初めて魔法を使った日
そして
初めて誰かに
呪いをかけた日
記録と記憶②
「・・・ねぇ、ちちうえ?」
『あー?』
「きょうは、ぼくに
『まほう』をおしえてくれる
やくそくだよね?」
『ああ、そうだとも。
それもとっておきのやつだからな。
準備も入念に…
必要なわけだ…っと。
よしよし、こんなもんだろう。』
「なにをしてたの?」
『結界を張った。
八層砦型・音絶式。
まぁーこの部屋自体が強固な結界みたいなもんだが
大袈裟すぎるぐらいがちょうどいい。
おっかないお目付け役の耳にでも届いたら大変だ。』
「・・・」
『さて、ブラムド。
部屋の中央にある【アレ】が気になっているご様子だな。
あれが何か、覚えているか?』
「まえに、ちちうえの
“けんきゅーしつ” でみた。」
『物覚えが良くて何よりだ。
【アレ】は今、
研究に使っている大事な実験サンプルでな。
俺は 【№8341】 と呼んでいる。』
「はち、さん…?」
『ま、覚えなくていい。
いいか?
ここからが重要でな、ブラムド』
『お前は以前、
【アレ】が自分の方を見ている、
と言っていた。
覚えているか?』
「うん。」
『…今でもそうか?』
「・・・・・・・・・・・。」
・・・・・・
「…うん。」
『よしよし、では本題だ。
【アレ】は人みたいな形をしただけの
枯れ木に見えるが…
お前も感じているように…
おそらく何かの”念”が宿っている』
「ネン?」
『何かのきっかけで
心みたいなものが宿ったってことだ。
だがそれは吹けば消えるロウソクのように
小さく、不完全なものだ。
そして【アレ】は見ての通り
目もなければ口も無く
話す言葉すら持っていない。
【アレ】が何かを考えていても、
こっちには何も伝わらないし
わからない。』
「うん?」
『そこでだ、ブラムド。
【アレ】が、
自由におしゃべりできるようになる
【魔法】がある。
それを一緒に唱えてみないか。
それが今日、お前に教えてやる【魔法】だ。』
「!」
・・・・・・・・
「で、でも、ちちうえ。
ぼく、まほうの、えっと、
”りゅうげんご”???
とか、なにもしらないよ?」
『俺が唱える音を、そのまま真似すればいい。
なに、多少とちっても問題ない。
俺が補助してやるから大丈夫だ』
「でも、でもどうして
ちちうえがやらないの?
ぼくがやるより、
ずっとじょうずにできるんでしょ?」
『そうしたいのは山々なんだがな~
いろいろ事情があってな~~~~
思い出しても腹が立つ…』
「?」
『まぁとにかく、
何事もやってみるのが一番だ。
本読むだけのお勉強はつまらんだろう?』
「でも・・・」
『……おや?
まさか…
まさか息子よ………。
お前…怖くなったのか?』
「!」
『いやいや…確かに難しい魔法だ…
おまけに呪文も長いしな…
ふつーーーーーの5歳のお子様には
ぜっっったい無理だろうが
皇帝の息子であるお前なら…
もしかしたら…
出来るんじゃないかと結構…
期待したんだが…
仕方ない!
いや、何も恥じるな。
俺もお前を怖がらせたくはないからな。
…やめるか?』
「やる(゚Д゚)」
『いやいや…無理するなよ…。』
「や!る!(゚Д゚)#」
『おおっ!
そうか~やるのか~
さすが俺の息子だな~。』
--------------------------------------------
実にちょろいと思われたに違いない。
幼かったとはいえ、親父の安い挑発に乗った自分は
まんまと親父の思惑通りに
【式命術】を使う羽目になった。
--------------------------------------------
『いいか、ブラムド。
肝心なのは最初と最後だ。
他の詠唱はカバーしてやれるが、
最初と最後の【名前】だけは、
正確に、はっきりと発音しろ。』
「わかった。」
『ではおさらいだ。
最初に唱える【名前】は?』
「ぼくの【まこと名】。」
『最後に唱えるのは?』
「【あの子】につける名まえ。」
『完璧だ。
では、
始めるとしよう。』
--------------------------------------------
あとで知った事だが
『式命術』とは本来
魔獣を【使い魔】として隷属させる為に用いる
『名約』の術。
だが、用いる際の【禁止事項】が存在する。
『生物以外に使ってはならない』
『念の込められたものに使ってはならない』
ここでいう生物の定義は
『血の通った動物』のことであり
古い館
宝石
人形
壊れた道具
永く生長した植物
人が描かれた絵画や写真
過去、これらに『式命術』をかけた結果
『異様な者』が宿ってしまい、事故が起きた例が多数残っている。
そのことを、あの親父が知らないはずがない。
あのくそ親父
5歳の息子になんて危険なことさせやがると
怒りが湧いたものだ。
--------------------------------------------
『…此に敷かれるは天下る降臨の儀』
「われ、-------------の名において
うつろのうつわに ”名”をかんする」
『耳無き者は 音を知り』
「かおなきものは かたちを持ち」
『己無き者は 自らを得る』
「うぞうむぞうと」
『森羅万象の流れから』
『「この名をもって
これより汝は ただ汝となる
この名は汝の心臓
汝の冠
汝の魂となり
我と汝を結ぶ標
虚無の檻から解き放ち
水鏡映すその身を 汝と覚え
今ここに 祝福を降ろす
暁のように目覚めよ
-------。 」』
--------------------------------------------
術が成功したことは
幸運というべきか、不運というべきか。
今の『彼』を見る限りでは、
まだそれははっきりとはわからない。
これが親父のやりたかった
『実験』だったのだろうか。
その答えをいつか聞き出そうと思っていた矢先、
親父は驚くほどあっさり逝ってしまった。
・・・・・・。
親父の死後、
かつての研究室を漁り
【№8341】に関する記録をひたすら探してみたものの
とうとう何も見付からなかった。
畳む
#記録と記憶
記録と記憶①

記録:xx年x月xx日
観察対象:No.8341
・日光、水の供給を停止してから7日目。
養分として与えたラット3匹は
わずかな体毛と骨を残して分解されている。
やはり生物から栄養を摂取すれば
水が無くとも生存できるようだ。
・そして生物からの摂取の方が
生長と再生が格段に速い。
面白い事にこの個体は
人型を模すように再生する。
・以前からこの種は、捕食した生物の形状に
変化することは確認されていた。
しかしその殆どが四足動物で
人型に化ける個体は確認されていない。
・この個体が過去に人間を捕食し
その形状を記憶したと推察できる。
しかし生息地の環境から
人間だけを過剰に摂取したとは考えにくい。
・なぜ数多くの捕食した生物の中から
人間の形状を取ろうとするのか。
次の実験では、人間の血液を与えてみ
「ちちうえーーーーー!
これなーにー?」
「若様いけません!お待ちください!」
・・・・・・・はあーーーーーーーー…。
「あ、待て止まれ!
それに触るなブラムド!
おい、マクスウェル…
おちび連れて来んなよ。」
「申し訳ございません、陛下。
偶然通りかかったところに
ここへ入り込もうとする若様をお見かけしたものですから。
お止めしたのですが…」
「それはご苦労だったな。
ミハはどこだ?
こいつのお守りはあいつの役…って、
さ、わ、ん、な、
つってんだろうがお前は。」
「え~、なんでダメなの?」
「お前の破壊神っぷりは有名だからな。
先週は書庫の書物に足跡つけまくったとか?」
「あ!わかったこれガイコツだ!」
「聞け。」
「それにしても…
相変わらず趣味が良いとは
言い難いものばかり研究されていますね。
【タタリガダリ】に
【シゲンバナ】…
どなたか呪い殺すおつもりで?」
「お前とかな」
「おや【モドキガミ】ですか、これは。
実に珍しい」
「あんな頭が堅い人間になるなよブラムド。
わかったか?」
「わかんない!」
「変わった形態をしていますね…
一体何の実験です?」
「まぁ色々と、だ。
まだまだ観察段階だな」
「しかしこの種は
国が認めた研究機関以外での保有は禁じられている
第一級禁種ではありませんでしたか?」
「よく知ってるな。感心感心。」
「……そう定められたのも
陛下であったと記憶しておりますが。」
「ああ。
だから何の問題ない。」
「・・・・・・・陛下」
「そう睨むな、お堅い”堅牢”よ。
いつだって俺が法律だろ。
なぁブラムド?」
「ちちうえがホウリツ?」
「若様に悪質な帝王学を刷り込まないでください。」
「おおらかに育てる方針なんだよ、うちは。」
「左様でございますか。
それ故に若様の多少のいたずらも
おおらかにお許しになるのですね。
流石、御心が広くていらっしゃる。」
「あ?
・・・・・・・おいブラムドお前それ
いつの間にどこから持ってきた!?」
「ひろった。」
「嘘つけ!
あ、コラ押すな!返せ!
~~~~なんでガキってのは
ボタンだのスイッチだのやたら押したがるんだ」
「あー!かえして~!」
「やかましい。この槽を開けるな。
せっかく整えた実験環境を台無しにする気か、
お前。」
「・・・・・・・・・・・・」
「何笑ってんだ、貴様」
「いえ、なにも。」
「も~かえして!
かえしてよ、ちちうえー」
「くどい。
一体何がしたいんだ
お前は」
「だってでたがってるんだもん」
「・・・・・はぁ?」
「ほら、ずっとこっちみてるよ?」
------------------------------------
どれくらい
こうしていただろう
”故郷”に いたころは
時の ながれなど
かんじたことも なかった けれど
ここにいると ずいぶん ながい事
こうして いるような 気が してくる
いつ日が のぼり
いつ日が しずんだのか
まっくらな ここにいると
なにも わからない
ここは せまい
くうきが おもい
みずも ひかりも
なにも ない
なにも ない この中に
あるひ やってきた ちいさな ネズミは
すぐうごかなく なって しまった
すっかり 冷たくなって しまうまで
ながめた あと
少しずつ たべた
たべながら ながれて きたのは
『コワイ』
『クルシイ』
ちいさな ネズミたちの 記憶
いきものの 記憶
コワイとは なんだろう
忘れないように
ゆっくり たべた
------------------------------
音しか きこえない せかいに
ちいさな あしおとが やって きた
あしおとが 目の まえで とまる
いつも きこえる
ニンゲンの 成人個体の
ものとは ちがう
たかい 声
ニンゲンの 幼体
目が あった
目のまえに あるのは
くらやみ だったが
なぜか
目が あったような 気がした
記憶に ある ニンゲンの 幼体は
こんなに つよい
気配を もって いた だろうか
いや そもそも
この 幼体は
・・・・・・・・・・・・・
わからない
----------------------------------------
「・・・・・」
「・・・・・」
「?」
「そりゃ気のせいだ、ブラムド。
こいつは生き物じゃない。
庭に咲いてる草花と同じで
ただの木の枝だ。
人みたいな形してるから
見られているように感じただけだ。」
「そうなの?
ん~~~でも・・・」
「…そろそろシルヴィアが
昼寝から起きる頃じゃないか?
またお前がいないと
兄様兄様って泣きまくるだろうな。
戻らなくていいのか?」
「あ、そうだった!
じゃあね、ちちうえ!
タバコひかえめにするんだよ!」
「どこで覚えたそんな台詞…
…クラウディアか」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・コレに、意思があると思うか?」
「なんとも申し上げれません…
ですが若様は、以前から
こういったものに関して
我々よりも敏感に感知されますので。」
「魔境の物とはいえ、植物だぞ?」
「もしかすると、新種の【人外】かもしれません。
いずれにしても、得体が知れない事は確かです。
研究もほどほどされて
早めにご処分なさってください。」
「…ふむ」
(その前に少し試してみるか…)
「絶対に駄目です。」
「何も言ってねぇが?」
「よからぬことをお考えの顔でした。
よろしいですか、陛下?
間違っても、絶対に、
【名付け】など、されませんように。」
「・・・・・・チッ。」
(読まれたか…)
「魂が宿ってしまいます。
ましてや【人外】の可能性がある個体になど
何が起こるかわかりません。
厄介事は貴方だけで十分なのですから。」
「さらっと暴言吐きやがったなお前。」
「まだまだ申したいことはございますが
我慢致しましょう。
陛下、お約束してください。
でなければ今、ここで、それを燃やします。」
「わかったわかった。
観察が終わり次第、こいつは焼却処分する。
書類にサインでもすればいいか?」
「【名約】でお願い致します。」
「…いい加減にしろよ貴様。」
「お願い、致します。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・はぁー、
【我、バルムンク・シイ=オルテギアの
名にかけて誓う】
…満足かボケ!本当に信用ねぇな!」
「結構です」
「このクソモノクルが、
不敬罪でいつか殺す…。」
「ええ、ええ。
その日が来ることを楽しみしております。」
畳む
記録と記憶①

記録:xx年x月xx日
観察対象:No.8341
・日光、水の供給を停止してから7日目。
養分として与えたラット3匹は
わずかな体毛と骨を残して分解されている。
やはり生物から栄養を摂取すれば
水が無くとも生存できるようだ。
・そして生物からの摂取の方が
生長と再生が格段に速い。
面白い事にこの個体は
人型を模すように再生する。
・以前からこの種は、捕食した生物の形状に
変化することは確認されていた。
しかしその殆どが四足動物で
人型に化ける個体は確認されていない。
・この個体が過去に人間を捕食し
その形状を記憶したと推察できる。
しかし生息地の環境から
人間だけを過剰に摂取したとは考えにくい。
・なぜ数多くの捕食した生物の中から
人間の形状を取ろうとするのか。
次の実験では、人間の血液を与えてみ
「ちちうえーーーーー!
これなーにー?」
「若様いけません!お待ちください!」
・・・・・・・はあーーーーーーーー…。
「あ、待て止まれ!
それに触るなブラムド!
おい、マクスウェル…
おちび連れて来んなよ。」
「申し訳ございません、陛下。
偶然通りかかったところに
ここへ入り込もうとする若様をお見かけしたものですから。
お止めしたのですが…」
「それはご苦労だったな。
ミハはどこだ?
こいつのお守りはあいつの役…って、
さ、わ、ん、な、
つってんだろうがお前は。」
「え~、なんでダメなの?」
「お前の破壊神っぷりは有名だからな。
先週は書庫の書物に足跡つけまくったとか?」
「あ!わかったこれガイコツだ!」
「聞け。」
「それにしても…
相変わらず趣味が良いとは
言い難いものばかり研究されていますね。
【タタリガダリ】に
【シゲンバナ】…
どなたか呪い殺すおつもりで?」
「お前とかな」
「おや【モドキガミ】ですか、これは。
実に珍しい」
「あんな頭が堅い人間になるなよブラムド。
わかったか?」
「わかんない!」
「変わった形態をしていますね…
一体何の実験です?」
「まぁ色々と、だ。
まだまだ観察段階だな」
「しかしこの種は
国が認めた研究機関以外での保有は禁じられている
第一級禁種ではありませんでしたか?」
「よく知ってるな。感心感心。」
「……そう定められたのも
陛下であったと記憶しておりますが。」
「ああ。
だから何の問題ない。」
「・・・・・・・陛下」
「そう睨むな、お堅い”堅牢”よ。
いつだって俺が法律だろ。
なぁブラムド?」
「ちちうえがホウリツ?」
「若様に悪質な帝王学を刷り込まないでください。」
「おおらかに育てる方針なんだよ、うちは。」
「左様でございますか。
それ故に若様の多少のいたずらも
おおらかにお許しになるのですね。
流石、御心が広くていらっしゃる。」
「あ?
・・・・・・・おいブラムドお前それ
いつの間にどこから持ってきた!?」
「ひろった。」
「嘘つけ!
あ、コラ押すな!返せ!
~~~~なんでガキってのは
ボタンだのスイッチだのやたら押したがるんだ」
「あー!かえして~!」
「やかましい。この槽を開けるな。
せっかく整えた実験環境を台無しにする気か、
お前。」
「・・・・・・・・・・・・」
「何笑ってんだ、貴様」
「いえ、なにも。」
「も~かえして!
かえしてよ、ちちうえー」
「くどい。
一体何がしたいんだ
お前は」
「だってでたがってるんだもん」
「・・・・・はぁ?」
「ほら、ずっとこっちみてるよ?」
------------------------------------
どれくらい
こうしていただろう
”故郷”に いたころは
時の ながれなど
かんじたことも なかった けれど
ここにいると ずいぶん ながい事
こうして いるような 気が してくる
いつ日が のぼり
いつ日が しずんだのか
まっくらな ここにいると
なにも わからない
ここは せまい
くうきが おもい
みずも ひかりも
なにも ない
なにも ない この中に
あるひ やってきた ちいさな ネズミは
すぐうごかなく なって しまった
すっかり 冷たくなって しまうまで
ながめた あと
少しずつ たべた
たべながら ながれて きたのは
『コワイ』
『クルシイ』
ちいさな ネズミたちの 記憶
いきものの 記憶
コワイとは なんだろう
忘れないように
ゆっくり たべた
------------------------------
音しか きこえない せかいに
ちいさな あしおとが やって きた
あしおとが 目の まえで とまる
いつも きこえる
ニンゲンの 成人個体の
ものとは ちがう
たかい 声
ニンゲンの 幼体
目が あった
目のまえに あるのは
くらやみ だったが
なぜか
目が あったような 気がした
記憶に ある ニンゲンの 幼体は
こんなに つよい
気配を もって いた だろうか
いや そもそも
この 幼体は
・・・・・・・・・・・・・
わからない
----------------------------------------
「・・・・・」
「・・・・・」
「?」
「そりゃ気のせいだ、ブラムド。
こいつは生き物じゃない。
庭に咲いてる草花と同じで
ただの木の枝だ。
人みたいな形してるから
見られているように感じただけだ。」
「そうなの?
ん~~~でも・・・」
「…そろそろシルヴィアが
昼寝から起きる頃じゃないか?
またお前がいないと
兄様兄様って泣きまくるだろうな。
戻らなくていいのか?」
「あ、そうだった!
じゃあね、ちちうえ!
タバコひかえめにするんだよ!」
「どこで覚えたそんな台詞…
…クラウディアか」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・コレに、意思があると思うか?」
「なんとも申し上げれません…
ですが若様は、以前から
こういったものに関して
我々よりも敏感に感知されますので。」
「魔境の物とはいえ、植物だぞ?」
「もしかすると、新種の【人外】かもしれません。
いずれにしても、得体が知れない事は確かです。
研究もほどほどされて
早めにご処分なさってください。」
「…ふむ」
(その前に少し試してみるか…)
「絶対に駄目です。」
「何も言ってねぇが?」
「よからぬことをお考えの顔でした。
よろしいですか、陛下?
間違っても、絶対に、
【名付け】など、されませんように。」
「・・・・・・チッ。」
(読まれたか…)
「魂が宿ってしまいます。
ましてや【人外】の可能性がある個体になど
何が起こるかわかりません。
厄介事は貴方だけで十分なのですから。」
「さらっと暴言吐きやがったなお前。」
「まだまだ申したいことはございますが
我慢致しましょう。
陛下、お約束してください。
でなければ今、ここで、それを燃やします。」
「わかったわかった。
観察が終わり次第、こいつは焼却処分する。
書類にサインでもすればいいか?」
「【名約】でお願い致します。」
「…いい加減にしろよ貴様。」
「お願い、致します。」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・はぁー、
【我、バルムンク・シイ=オルテギアの
名にかけて誓う】
…満足かボケ!本当に信用ねぇな!」
「結構です」
「このクソモノクルが、
不敬罪でいつか殺す…。」
「ええ、ええ。
その日が来ることを楽しみしております。」
畳む
記録と記憶③
「くはははは!
よくやったブラムド。
初めてにしては上出来だ。」
『・・・・・・!』(ゴクリ)
「ん?
なんだお前、びびってんのか?」
『べ…べつに!
こわくないもん!』
「おう、そうかい。
さすが俺の息子だなぁ。
なら隠れてないで
ご挨拶してやれよ、ほれ。」
『わっ!ちちうえ!』
「ほら、しゃんとしろ。
舐められるぞ。
ちゃんと【コイツ】の眼を見て
しっかり覚え込ませるんだ。
だれが【主人】なのか、な。」
『~~~~。』
((((´・ω・`;)
「心配するな。
ちゃんと上手くいってる。
【コイツ】はお前に忠実な【下僕】となった。
お前に危害を加えることは出来ない。」
『しもべ?』
「お前の言うことをなんでも聞く
召使いってことだ。
まぁ色々教えてやれよ。
はじめての【使い魔】だぞ。」
『ふーん…?
あ!ねぇ、ちちうえ!
ルヴィにも見せたい!
見せていい?』
「あーーー…。
いや、ブラムド。
シルヴィアに見せるのは、だめだ。」
『え~?
なんで?』
「おいおい、俺が最初に言った事を
もう忘れたのか?
いいか、もう一度だけ言うぞ。
今日、ここでの出来事は
ルヴィにも、母上にも、
誰にも言ってはいけない秘密だ。
特に、
特にだぞ?
マクスウェルには
絶っっっっっっっ対に
言っては駄目だ。
…わかるな?
俺と、お前だけの
秘密だ。」
『・・・マクスウェルに、おこられる?』
「怒られる。
絶対に、怒られる。」
『…じゃあ、ひみつにする・・・。』
「よしよし。
いい子だなぁ、お前は♪」
あの日の事は、よく覚えている。
珍しく父親にかまってもらえた
嬉しさもあって
幼い俺は、
ホイホイと親父の
『言う通りに』した。
ちちうえがいるから、だいじょうぶだ。
あの頃の俺は、
親父を信じて疑わなかった。
後に魔法を学んでいく内に
当時の俺が
どれほど『 危険な事をしたか 』
わかった時は戦慄したものだ。
なぜ親父はあの時
俺に『 あんなこと 』をさせたのかは
わからない。
ただの好奇心だろうか。
それとも、なにか目的があったのだろうか。
今ではもう、確かめようがない。
・・・・・・・・・・。
『あの日』のことは
いまだに、誰にも言っていない。
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