MEMO

創作語りとかラクガキ

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No.33

#記録と記憶
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あれはきっと
俺が初めて魔法を使った日

そして

初めて誰かに

呪いをかけた日



記録と記憶②





「・・・ねぇ、ちちうえ?」


『あー?』


「きょうは、ぼくに
 『まほう』をおしえてくれる
 やくそくだよね?」


『ああ、そうだとも。

 それもとっておきのやつだからな。
 準備も入念に…
 必要なわけだ…っと。
 よしよし、こんなもんだろう。』


「なにをしてたの?」


『結界を張った。
 八層砦型・音絶式。

 まぁーこの部屋自体が強固な結界みたいなもんだが
 大袈裟すぎるぐらいがちょうどいい。
 おっかないお目付け役の耳にでも届いたら大変だ。』


「・・・」


『さて、ブラムド。
 部屋の中央にある【アレ】が気になっているご様子だな。
 あれが何か、覚えているか?』


「まえに、ちちうえの 
 “けんきゅーしつ” でみた。」


『物覚えが良くて何よりだ。
 【アレ】は今、
 研究に使っている大事な実験サンプルでな。

 俺は 【№8341】 と呼んでいる。』


「はち、さん…?」


『ま、覚えなくていい。
 いいか?
 ここからが重要でな、ブラムド』


『お前は以前、
 【アレ】が自分の方を見ている、
 と言っていた。
 覚えているか?』


「うん。」


『…今でもそうか?』


「・・・・・・・・・・・。」



・・・・・・



「…うん。」


『よしよし、では本題だ。

 【アレ】は人みたいな形をしただけの
 枯れ木に見えるが…

 お前も感じているように…
 おそらく何かの”念”が宿っている』


「ネン?」

『何かのきっかけで
 心みたいなものが宿ったってことだ。

 だがそれは吹けば消えるロウソクのように
 小さく、不完全なものだ。
 
 そして【アレ】は見ての通り
 目もなければ口も無く
 話す言葉すら持っていない。

 【アレ】が何かを考えていても、
 こっちには何も伝わらないし
 わからない。』


「うん?」


『そこでだ、ブラムド。

 【アレ】が、
 自由におしゃべりできるようになる
 【魔法】がある。

 それを一緒に唱えてみないか。
 それが今日、お前に教えてやる【魔法】だ。』


「!」



・・・・・・・・




「で、でも、ちちうえ。
 ぼく、まほうの、えっと、
 ”りゅうげんご”???
 とか、なにもしらないよ?」
 

『俺が唱える音を、そのまま真似すればいい。
 なに、多少とちっても問題ない。
 俺が補助してやるから大丈夫だ』


「でも、でもどうして
 ちちうえがやらないの?

 ぼくがやるより、
 ずっとじょうずにできるんでしょ?」


『そうしたいのは山々なんだがな~
 いろいろ事情があってな~~~~
 思い出しても腹が立つ…


「?」


『まぁとにかく、
 何事もやってみるのが一番だ。
 本読むだけのお勉強はつまらんだろう?』


「でも・・・」


『……おや?

 まさか…
 まさか息子よ………。

 お前…怖くなったのか?』


「!」


『いやいや…確かに難しい魔法だ…

 おまけに呪文も長いしな…

 ふつーーーーーの5歳のお子様には

 ぜっっったい無理だろうが

 皇帝の息子であるお前なら…
 もしかしたら…

 出来るんじゃないかと結構…
 期待したんだが…

 仕方ない!
 いや、何も恥じるな。
 俺もお前を怖がらせたくはないからな。


 …やめるか?』


「やる(゚Д゚)」


『いやいや…無理するなよ…。』 


「や!る!(゚Д゚)#」


『おおっ!

 そうか~やるのか~

 さすが俺の息子だな~。』






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実にちょろいと思われたに違いない。

幼かったとはいえ、親父の安い挑発に乗った自分は
まんまと親父の思惑通りに
【式命術】を使う羽目になった。




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『いいか、ブラムド。
 肝心なのは最初と最後だ。

 他の詠唱はカバーしてやれるが、
 最初と最後の【名前】だけは、
 正確に、はっきりと発音しろ。』
 

「わかった。」


『ではおさらいだ。
 最初に唱える【名前】は?』


「ぼくの【まこと名】。」


『最後に唱えるのは?』


「【あの子】につける名まえ。」


『完璧だ。

 では、

 始めるとしよう。』




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あとで知った事だが

『式命術』とは本来
魔獣を【使い魔】として隷属させる為に用いる
『名約』の術。

だが、用いる際の【禁止事項】が存在する。


『生物以外に使ってはならない』

『念の込められたものに使ってはならない』

ここでいう生物の定義は
『血の通った動物』のことであり

古い館
宝石
人形
壊れた道具
永く生長した植物
人が描かれた絵画や写真

過去、これらに『式命術』をかけた結果
『異様な者』が宿ってしまい、事故が起きた例が多数残っている。

そのことを、あの親父が知らないはずがない。

あのくそ親父
5歳の息子になんて危険なことさせやがると
怒りが湧いたものだ。



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 『…此に敷かれるは天下る降臨の儀』

 「われ、-------------の名において
 うつろのうつわに ”名”をかんする」

 『耳無き者は 音を知り』

 「かおなきものは かたちを持ち」

 『己無き者は 自らを得る』


 「うぞうむぞうと」
 『森羅万象の流れから』
 


 『「この名をもって
  これより汝は ただ汝となる


  この名は汝の心臓
  汝の冠
  汝の魂となり

 
  我と汝を結ぶ標


  虚無の檻から解き放ち

  水鏡映すその身を 汝と覚え

  今ここに 祝福を降ろす




  暁のように目覚めよ



     -------。     」』






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術が成功したことは
幸運というべきか、不運というべきか。

今の『彼』を見る限りでは、
まだそれははっきりとはわからない。

これが親父のやりたかった
『実験』だったのだろうか。

その答えをいつか聞き出そうと思っていた矢先、
親父は驚くほどあっさり逝ってしまった。

・・・・・・。


親父の死後、

かつての研究室を漁り
【№8341】に関する記録をひたすら探してみたものの


とうとう何も見付からなかった。




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ブラムド