MEMO

創作語りとかラクガキ

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No.97, No.96, No.95, No.92, No.91, No.90, No.887件]

らくがき
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俺自身は全く覚えていないのだが

小さい頃の俺は、
随分と手のかかる
いたずら小僧だったらしい。

特に2~3歳の頃はひとり遊びすることが多く
広大な城の中を、供も付けず一人で
勝手に歩き回るので

目を離すとすぐに姿を消してしまう俺を
母上や侍女たちはひどく心配したそうだ。

しかし、
ケロッとした様子で戻ってくる俺の行動に
周囲もその内慣れていったという。

俺が『ひとり散歩』からご機嫌で戻ってきた後は、
城内のあちこちでいたずらの痕跡が見つかる。

特に多かったのは落書きだったそうだ。

お気に入りの落書き道具はチョーク。
どうやら親父の研究室から拝借したらしい。

壁や床は格好の獲物で、
中には『なんでこんな所に?』というような
明らかに手の届かない場所や、
普段は立ち入ることはないような場所にまで描いていたらしく
城内のミステリーになっていたとか。

しかし、こんな話をいくら聞かされても
俺は幼い頃、絵を描いていた記憶が無い。

お気に入りだった紫色の猫のぬいぐるみ。

よく遊んでいた積み木の感触。

ボールの色。

幼い頃に触れた玩具の記憶は
今でもおぼろげに残っているのに

どんな絵を描いていたのか
なにを描くのが好きだったのか

俺は、何も覚えていない。

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「それは何を描いているんだ?ブラムド」


~side B~



中庭の石畳に座り込み、
きょとんとした顔でこちらを見上げた息子は
『んー?』と言って首を傾げた。

 落書きの現場を発見されたにも関わらず
怒られるとは微塵も思っていない様子だ。

まぁ別に咎める気も無いが。

こいつは今年3歳になったばかりだが、まぁよく動き回る。
 一秒でも停止していない。

そんなチビ猿が大人しくなるのが、
こうやって何かを描いている時だ。

話には聞いていたが
なるほど
随分と奇妙な絵を描く。

妻が心配するわけだ。

こういう時期の子供は
大抵身近な人物や物、
好きな動物や絵本のキャラクターを描くことが多い。

少なくとも、見た事があるものしか描けないはずだ。

生まれて数年足らずのこいつが、
これまで見てきたものなど高が知れている。

にもかかわらず。

こいつは城内では見ることは
有り得ないであろうものを、よく描く。
そう語るミハの表情は、常に不安そうに陰っていた。

しかし、所詮は子供の落書き。
さほど気には留めていなかった。

 が。

「…確かにこれは不安にもなるな。」

落書きを眺めながら、ぼそっと呟いた俺の言葉に
ようやく話す気になったらしい息子は
舌足らずな高い声で、喋り始めた。

「あのね~。
 これはおじいちゃんで~
 あっちはおねえちゃんと~
 おねえちゃんのおにいちゃん。

 でもね、こっちはあかちゃん!
 だからあいにくるんだよ!」


「そうか。」

うむ、予想通り
何言ってるのかひとつも理解できねぇ。

「ぐるぐるしてて~おててつなぐの。
  ぼくね!まんなかのやく!
 ずっとまんなかにいたの!えらいでしょ!」

 
「ほう。」

なんか、普段使ってない部分の
脳みそ使うな。この会話。


「でもね~いまはまんなか、だれもいないの。
  だれかいないとこまるんだよ。
 こまったね?」


俺がいま困っている。

「…誰かがいないとなんで困るんだ?」

言った瞬間、訊かなきゃよかったと心底後悔した。
また支離滅裂なトークが始まるに違いないというのに。

するとこいつは怒った様子で訴えた。

「こまるよ!ちちうえもこまるでしょ!」

知らねぇよ。

あまりに意味不明な話に思わず吹き出すと、
ますます怒り心頭になったらしい息子は、
俺のマントをひっつかみながら
キィキィと喚きだした。

「も~ばかー! ちちうえのばかー!」

「なんでお前に馬鹿呼ばわりされなきゃならんのだ?ん?」

足元で騒ぐ小人を肩に担ぎあげると、
小さな暴君は途端に大人しくなった。

肩車すれば大抵のご機嫌は直るので、ちょろいものである。

俺の頭上ではまだ『こまるのに・・・』
とぶつくさ言っているが
ぷらぷらと嬉し気に揺れている足が
怒りが治まったことを物語っている。


風が冷えてきた。


中庭にも西日が差し込み、
昼と夜の狭間が出来ている。

「もう戻るぞ。
 お前が熱を出すと、またうるさく言われるからな。」

反発の声は降ってこないので、返事を待たずに歩き始めた。
うとうとし始めているのかもしれない。
首の後ろがやけに温い。

この待望の世継ぎに対して、
周囲は過保護っぷりは呆れるほどだ。

元々子供好きなミハはまぁわかるとして、
あのマクスウェルでさえ
こいつに対しては随分と対応が甘い。
相変わらずニコリともしないのだが。

だからまたいつもの過剰な心配だと思っていた。
だから実際に様子を見に行くこともしなかった。

しかし。

「これはすぐに消させた方がよさそうだな…。」

妻の、クラウディアの目に入る前に。

中庭の石畳、全てを埋め尽くすように描かれた

おびただしい数の

息子の『落書き』を。

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通り雨
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渇きを癒して すぐ止んだ
私の愛しい通り雨



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幼い頃、雨の日が大好きだった。

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みなが家に籠もり、
町から人の気が無くなる薄暗い日。

誰もいない小道を
母といっしょに散歩できる唯一の日だった。

あの頃、僕にとって外の世界は
雨の世界が全てだった。

いつもは潜めている声も
雨の音が全て消してくれる。

僕をジロジロ見てくる人々も
雨が家の中へと封じ込めてくれる。

誰も見てくる人がいないから、
いつもは隠している眼で
空を見上げることもできた。

雨が
僕にわずかな自由を与えてくれた。

そのせいだろうか。

いつからか、僕がふと願うと
雨が降るようになった。

庭先の花が枯れそうになった時も。

隣の山で火事が起こった時も。

母と離れ離れになったあの日も。


僕を不安から守るかのように、雨が降った。


兄のもとで暮らすようになって
すっかり背丈も伸びきった頃

雨は、ほとんど降らなくなっていた。


もうお守りはいらないのだと
弱い子供ではなくなったのだと

そう思っていたのに




最近また



雨が、よく降る。

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おまえは雨みたいな男だな


そう言うと
むかしから雨男なんだよ
と返ってきた

そういう意味で言ったつもりではなかったが
うまく説明する言葉が見つからなかったので
そのまま言い流すことにした

確かに、よく雨が降る
私が出かけようと思った時には、特に。

その度に奴は、
遣らずの雨だねぇ
と、うれしそうにぬかすので

こちらもすっかり
毒気を抜かれるのだ


本当に


雨みたいな男だった


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きっと一生、忘れることはない
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漆黒の葬列に
似つかわしくない程の
紺碧の空

雲ひとつない快晴の日

わずかに震えていた父の手と

まるで幻のように降った


あの雨を

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VLAD,ドレイク

深い花畑
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誰が語り始めたのか
どこから伝わったのか
どれほど昔のことなのか

何もわからないまま 
ただ伝わり続ける御伽噺がある

世界のどこか
誰も知らないどこかに
誰もたどり着けない 庭が眠っている

そこは朝も夜もなく
生も死もない

深い花畑と呼ばれる場所

薄紅色の花が
地の果てまで咲き誇り
決して止むことのない小雨が
静かに降り続ける庭

その庭を護る者は  

顔を持たない わらべ達と

声を持たない 赤毛の男

わらべたちはただ 歌い続け
男はただ 花を摘み続ける

時が止まったかのような
静かな 静かな庭


もし  その庭の「雨」が止んだら


人々は 思い出さなければならない





もし、雨が止んだら




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VLAD

経験不足

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『⋯う~ん、ちょっと状況がわからないなぁ。
 だれか説明してくれる?』


「ダレス卿。どういうつもりだ?」

「それはこちらの台詞ですな、殿下。
 魔法使いをこの国に入れるなど…
 何を考えておいでです?」

「知れた事。
 妹にかかった【呪い】は、もはや聖霊術では
 どうにもならん。
 手段を選んでいる場合では無い事は
 わかりきっているだろう。」

「そこでその魔法使いの力を借りよう、
 というワケですか?」

「そうだ。」

「承服できませんな。
 治療のフリをして、姫様にどんな【呪い】をかけるか、わかったものではありません。」

「では、このまま何も手を打たず
 アリィが死ぬのを待てと抜かすのか
 貴様らは?
 大した忠義心だな。」

「今、我が国の術師たちが
 総力を挙げて治療法を探っております。
 どうかご安心ください。」

「それでは手遅れになると何度言わせる気だ!」

「仮にそうなったとしても…
〝ナスカディルの王族は
 魔法使いに命を救ってもらった〝
 …などという話が広まり、
 この国の沽券に関わるような事態に
 陥るよりは…致し方ありません。」

「はっ、それが【国王陛下】のご意見か。
 相変わらず体裁ばかり拘るじじいだ。
 娘の命すら、その天秤にかけるとはな!」

「殿下。
 そうなった場合、一番お辛いのは姫様です。
 名誉を汚した王族に対して、
 陛下がいかにお厳しいか…
 殿下はよくご存じのはず。」

「…ダレス。
 これが最後の警告だ。

 私が剣を抜く前に、失せろ。

 今の私には、
 これ以上お前たちの戯言に付き合ってやる時間も、
 余裕も、無い。

 私がアリィの為なら、【何でもする】ことは
 お前もよく〝ご存じ〝だろう?」


「・・・・・。」



『はぁ〜、どこのご家庭も大変だ。』

「…小僧。
 死にたくなければ余計な口を挟むな。」

『ははっ、どうせ殺す気なくせに。
 最後の一服ぐらいさせてよ。

 ところでこんな話を知ってるかな?

 ドラグーンもハーディンも、頭数は大して差が無いんだけど
 【カラビニエ】みたいな戦闘特化部隊っていうのは本当に少数で
 ドラグーンの殆どは、研究職みたいな
 非戦闘タイプなんだよねぇ。』

「は?」

『クラウンを扱える技量はあっても、
 戦闘機動までできるかと言われたら
 そういうわけでもなくてさ。
 やはり戦闘員の多さは、ハーディンには全然及ばないみたいだよ?』

「一体何の…」
『でもね』

『そのハーディンも、実戦経験の殆どが
 【魔獣】相手なんだ。

 戦闘特化タイプのドラグーンは少ないから
 遭遇率も低いんだろうねぇ。

 ドラグーンとの対戦経験のあるハーディンは
 大僧正お抱えの『暁星騎士団』、
 あとは先の戦争経験者ぐらい。

 その経験者も、今や引退か高齢化しちゃってて
 若手の経験不足がずいぶん深刻らしい。

 だから結構やられちゃうんだってさ。
 知らぬ間に
 ドラグーンの、
 術中にハマってね。

 ちなみに、我らドラグーン戦での鉄則は
 「喋らせる隙を与えるな」、だ。』

「・・・・・・」

『さて、ここで質問なんだけど。

 僕の見立てでは、諸君らは全員
 【経験不足】側の騎士だと思ってるわけだが…
 どうかな?
 
 ま…訊くまでもないか。』


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『さて、無駄に時間をくったね。
 先を急ごうか。』

「…お前、一体何をしたんだ?」

『ん?ああ、アレ?
 みんなで仲良く三日ほど
 森の中をお散歩してもらうだけだよ。

 前後の記憶はごっそり消えるから大丈夫。
 さっきのやりとりも
 ここで僕たちと会った事も
 綺麗さっぱり、忘れるさ。』

「いつの間に呪文を?」

『ドラグーンは言の葉を操る魔法使いだよ?
 会話や呼吸の合間に、
 【竜言語】のせるぐらいワケないさ。
 まぁこの方法だと唱え終えるのに
 かなり長話しないとダメだけど。
 いや~呑気に聞き入ってくれたから
 助かったよ、ホント。』

「…なるほど。
 さっきの話が事実だということが
 皮肉にも証明されたわけだ。」

『(非戦闘タイプもこの手の術は出来る事は言ってないけど)
 ⋯ま、そういうこと。君も気を付けてね。

 お喋りなドラグーンに遭遇した時
 相手の話に付き合ったら、駄目だよ。

 こんな風に、知らない間に催眠かけるなんて
 お手の物なんだからさ。』

「・・・・・・・・。」

『おー怖、そんな睨まないでよ。
 君にはしないから。
 【約束】だからね。』


『しかし思いの外うまく行ったなぁ⋯。
 経験あるハーディンなら、【竜言語】の
 特殊な発音に気付いて、術の完成前に
 相手を攻撃したりするんだけど⋯

 マスターの言ってた通りだ。
 経験不足って、怖いねぇ。』





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王と皇帝,ドレイク

これからしばらくざっかざっかと
旧ブログから過去の創作ネタ放出(移設)祭りになると思いますが、
順不同のごちゃみそなのでわかんなくていいです。雰囲気だけお楽しみください。
そのうち整理します。
なんせ2013年からためてるからどえらい量やで…。

師弟
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『クロイツはさー。結婚しないの?』
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「…はぁ??」


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稽古で投げ飛ばされ、地面に手足を転がしたまま
飛び出した言葉が、これだ。

「なんだ突拍子に。」

またどこで何を吹き込まれてきたんだ、コイツは。

『だってさー。
 アンダーソンはもう二人も子供がいるし、
 ドノヴァンだってこないだ、お嫁さん貰ったって聞いたよ。

 でもクロイツは全然そんな気配ないじゃん。
 なんでしないのかな~って』

ああ…
そういえばアンダーソンの奴が
そんな事を言っていたような気がする。
まるで興味が無かったので聞き流したが。

確かに同期の中で未婚の奴と言えば
もう数える程しかいない。

「適当な相手もいないし、何より面倒だ。」

『子供とか欲しくないの?』

「ただでさえ出来の悪いガキの子守りに
 頭痛がしてるってのにか?
 これ以上面倒増やしてたまるか。」

『そっか~。』

…?

妙だな。
普段ならここで、俺の嫌味に対して
ギャンギャン噛みついてくるのだが…
今日はどこか上の空だ。

「なんだ。
 またジジイ共に嫌味でも言われたか。」

カラになった煙草の箱を握りつぶしながら、
言葉を待った。
こいつがやけに大人しい時は、大抵それだ。

聞き流せばいいものを、
いちいち真面目に受け取って悩む。
こいつの悪い癖だ。

『ん~~~~~嫌味というか~・・・・』

大の字のまま、歯切れ悪く
ゴニョゴニョと言い淀んでいる。
複雑、といった表情だ。

その顔を見て、こちらもおおよその察しがつく。

『・・・・・・・・・兄さんがさ…
 ”そろそろ結婚しろ”って勧めてくるんだよ…』

やはりか。

「お前、今年でいくつになるんだ?」
『シックスティーンです、センセー。』
「じゃあ年頃だろう。そんな話が出てもおかしくはない。」
『兄さんは20歳だったよ?』
「陛下の例を持ち出すな。お前とは事情が違う。」
『ふ~~~~ん?どんな?』

突っかかる物言いをしてくるな、このガキ。

「…その少ない脳みそでよく考えてみろ。
 陛下は御妹弟と御父上の葬儀が立て続き、
 そういった話の挙がるタイミングが遅れただけだ。

 さらにその遅れに、
 拍車をかけた、
 最たる原因は、
 誰 の こ と か わ か り ま す か な  ?  
 殿下。 」

『Σ(゚皿゚)ぐぅ・・・!』

墓穴を掘ったことにようやく気付いたらしい。

気まずそうに黙り込んだ様子に満足したところで、
そろそろ本題を聞いてやることにした。

「…まぁ、陛下もその手の話が挙がった時には
 散々暴れてくださったが。」

『知ってるよー…
 確かマクスウェルの部屋を壊したんでしょ?』

「正確には、”御部屋のあった棟を半壊させた” だ。」

『・・・・自分の時はそれだけゴネといてさ、
 何が、
 ” いい加減、皇族としての自覚と責任を持て” 
 …だよ!
 記憶喪失!?
 記憶喪失ですか兄さん!!!??」

確かに豪快な棚上げではある。

『しかもなんか相手をすでに見繕ってて
 今度会ってみろとか言うんだよ、はーーー!?
 それされてキレたの誰ですか、ええーーーーーー!?』

話す内に怒りが込み上げてきたのか、
珍しく口調が荒くなる。

自慢の黒髪をふり乱しながら、ゴロゴロと地面を転がる様はお子様だが
絶大な信頼を置いている兄からの意外な仕打ちだ。
こいつなりにショックを受けているのだろう。

このワカメの言い分もわかる。
しかし、
陛下のご心配も最もだと思った。

何せこいつは、思春期真っ盛りにも関わらず
異性への関心がまるで見られない。

うぶとか言うレベルではない。
興味を示さないのだ。

6歳で母親から引き離されたことを思えば、
幼い頃は陛下にベッタリなのも仕方がないものだと思っていた。

しかし、それも成長するにつれて自然に
兄離れしていくだろうと・・・。

ところがだ。
こいつは未だに年がら年中
『兄さん兄さん』と陛下にまとわりつき
健在のブラコンっぷりを発揮しているのだ。
幼い頃と同じように。

これはまずいと誰もが思う。

陛下も、なんとかせねばという思いから
縁談に踏み切ったのだろう。

本人が絶対に嫌がるとわかっていても。

そうこうしている内に落ち着きを取り戻したのか。
ワカメ人間がようやく身を起こした。

表情は暗い。

この様子を見る限りでは
不満がありつつも、はっきりと断りきれなかったのだろう。

しかし…

「お前は結婚が嫌なのか?」
『へ?そりゃそうでしょ?』

これは意外だった。
こいつは誰よりも家族愛に飢えていそうなタイプに見えたが。

「何故だ?エリオット様との様子を見る限り、
 てっきり子供好きだと思っていたんだがな。」

この春、2歳になった帝国の第一皇子にこいつは夢中だ。
溺愛してると言ってもいい。

甥っ子と言うよりは、弟に近い感覚なのだろう。
過度に甘やかしてはよく陛下に叱られている。

『エルは可愛いよ。すっごく。
 だからだよ。』

・・・・・・
なるほど、ようやく合点がいった。

「…後継者争いの火種にならないか、心配なのか。」

自分の子が。

『今のところ、エルに竜眼は出ていない。
 可能性はゼロとは言えないけど
 兄さんも、他の学者たちの見解も
 発現率は極めて低いという話だ。僕も同意見さ。』

『そうなるとやはり、
 次の【継承者】になる確率が高いのは
 僕の子供だろう。
 兄さんもそれがわかっているから、僕に縁談を勧めてくる。

 そりゃそうだよね。
 継承が断たれると後々どれほど大変なのか
 僕も兄さんもよく知ってるもの。

 兄さんの気持ちや考えはわかる。
 わかっているんだけどね。』

『それでも僕はいやなんだ。』

「・・・・・・・・・・・」

『兄さん、【竜眼】のことで
 辛かったこと沢山あったと思うんだ。
 きっと僕がここに来た後も。

 だからエルの隣に、
 【竜眼持ちの子】を置きたくないんだ。
 それを兄さんにも、見せたくない。』

「…継承が断たれると
 困ったことになると言ったのはお前だぞ?」

『そうだね。
 でも僕がいなくなったあと、【十王】はきっと
 兄さんたち【直系皇族】に戻るよ。』

・・・・・・・・・・
握ったままの空箱が、さらに潰れていくのがわかった。

『父上が残してくれた記録を色々調べてみたんだけどね、
 過去にも例があったみたいなんだ。
 一時的に直系から外れて、分家の方に継承者が現れても
 その継承者の死後はまた、直系の者に宿ってる。
 やはり血筋が濃い者を好むみたいだね、【十王】は。
 だから僕がこのまま子供を持たずにいれば
 僕が死んだ後、きっとエルの子供たち辺りに【竜眼】が』

「もういい。」

聞きたくない。
そういう含みを持たせた口調で遮った。

こいつが言いたいことはわかる。

気持ちもわかる。

わかるがもう、聞きたくはなかった。

『・・・・・・・・・。』

話を中断させられたにも関わらず、こいつは落ち着き払っている。
ああやっぱり、というような顔をして。


俺の反応は予想通りというわけか。
・・・・・・。

「お前まさか、それと同じことを
 陛下にも言ったんじゃないだろうな?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

言ったな、こいつ。

『…クロイツと同じ反応されたあと、 
  ”とにかく会え。”…で、終わった、かなー…。』

ぶん殴りたくなってきた。

「…いいか? 陛下に対して、
 身内の死を匂わせるワードは 絶対に言うな。
  金 輪 際 だ 。」

何故わざわざ地雷を踏むのだ、こいつは。

『わかってるよー・・・・・。
 でも、しょうがないじゃん!?
 僕だって兄さんたちを思って、色々考えてるのに
 いきなり問答無用で縁談持ち出されてさ~
 だからついついヒートアップして痛い痛い痛い痛い痛い』

頭を掴み上げるようにして立たせた。

最近、【継承者】としての自覚が芽生えてきた様子に
安心しきってしまったようだ。

ここいらで躾が必要だな。

「それだけ生意気な口が利ける元気が有り余っているなら・・・
 手加減は、無用だな?
 感謝しろよ、今日は全力で相手をしてやる。」

『え』

リミッターを全器解除した俺の様子に
冗談や脅しの類ではないと悟った童顔が凍り付いた。
だが、手は抜かない。

『…センセー。 
 ”ギブアップ”は有効でしょーかー…?』
 (^v^;)ニコッ

「安心しろ。
 気絶したら止めてやる。」(^v^)ニコッ

『ですよねあああああああああああああああ!』

訓練場の空高く放り投げられた奴の叫び声が
稽古開始の合図となった。

今日は結界を強めに張っておいてよかった。
奴の断末魔は誰にも届くまい。

二度とふざけた台詞を吐かないよう
存分に叩きのめすことにした。





畳む

王と皇帝