No.15, No.14, No.13, No.12, No.11[5件]
一8の騎士
最初はなんの冗談かと思った。
あいつは自分が気に入った者なら
物乞いだろうが、罪人だろうが、
おかまいなしに重用することは知ってはいた。
知ってはいた、が。
よりにもよって
まさか
『ドラグーンの魔法使い』にとって宿敵である
『ハーディンの騎士』を側に置くとは
誰が予想できただろうか。
ある時、予告も無くいきなり
うちの国へ連れて来られた日には、さすがに怒った。
家臣たちは緊張で殺気立つし、
側近のファルキアなんかは、皇帝であるバルムンクの御前で
抜剣しようとする始末。(あわてて制止した)
なのに元凶たる当のご本人ときたら
そんな俺たちの反応を楽しむかのごとく
呑気にへらへらと笑ってやがる。
とりあえず、人払いをした後で
思いっきりゲンコしておいたが。
その騎士は、「イバ」と呼ばれていた。
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一言で表すなら、とても静かな男だった。
喉が潰れているとかで、話すことができないせいもあっただろうが
元々ある気配や、一挙一動の所作に至るまで
とにかく静かなのだ。
当初は、その不気味なほどの大人しさに
『なにか企んでいるのではないか』と、警戒したものだ。
一方、彼の主たるバルムンクは
当時から実に騒々しい子供であり
一度思いついたことを語り出すと、延々にしゃべり続けるという
落ち着きのない性質を持っていた。
アレには俺は勿論のこと、
奴の家臣たちも辟易していたように思える。
だが奴は、イバが相手となると
あの騒々しさが嘘のように、落ち着いて話すのだ。
イバは手話で会話していたが、慣れていないのか
動きはたどたどしく、一度に多くを語れない。
バルムンクが二、三言話すと、イバが返答をし、
またバルムンクが少し話して、イバもサインを返すという、
実にゆっくりとした会話だった。
あまりのじれったさに一度
筆談にしてみたらどうかと、提案した事があった。
しかし、
イバがペンを握れないので無理だ。と、
あっさり却下された。
腕の力は入るが、握力がかなり弱っているらしく、
食事のスプーンすらまともに持てない程だという。
杖を使えば歩行は問題ないが、走る事は出来ず
時々何もないところでつまづく様子を、俺もよく見かけた。
『イバ』
この名の示す通りであれば、
彼はかつて、『18』の式番を持つ、上位騎士であったのだろう。
階級は間違いなく『白衣(ビャクエ)』だったはずだ。
それほどの騎士が、
二度と戦えなくなるほどの傷を負った原因とは
何だったのだろうか。
そもそもそんな騎士を、どこで拾ったというのか。
いつか折を見て、バルムンクの奴に
訊ねてみようかと思っていた。
だが結局
その機会が訪れることはなかった。
忘れもしない。
あれは静かな夕刻のときだった。
突如、国中の魔力計器が狂ったように警報を鳴らし
術具という術具がすべて異常な挙動を見せ、
いつも騒がしい魔獣たちが、水を打ったように静まり返り
『帝国の十王』が再臨したことを告げていた。
そして、帝国の『十王覚醒』による混乱が
ようやく収まった頃。
久々に訪ねた皇帝の側に、イバの姿は無かった。
彼はいつも、
バルムンクの傍らで静かに控えていて
その姿はバルムンクの影のようであり、
奴を護る強固な城壁のようでもあった。
そんな彼の様子を見ている内に
『バルムンクへの害意は無いのだな』 と
俺も徐々に、彼への警戒を解いていった矢先だった。
イバが、いない。
本来なら、危険人物ともいえる
『ハーディンの騎士くずれ』がいなくなったことは、
喜ばしいことなのかもしれない。
だが、俺はこの時
ひどく嫌な胸騒ぎを覚えた。
バルムンクの、いつもと変わらない様子。
いつもと変わらない軽口。
ただ違うのは
奴の横に、イバがいないだけ。
たったそれだけの事なのに
あれほど高慢で不遜で
神童とも称えられるバルムンクが
ひどく危うく見えた。
誰もイバの事に触れない。
バルムンクすら口に出さない。
今、この宮殿では彼の話はタブーなのだなと察せられた。
バルムンクの眼を見遣る。
いつもの鋭い竜眼が、
”子ども”を止めた眼をしていた。
「イバは死んだのか」
場の空気が、一瞬にして凍り付いたのがわかった。
俺の従者も、バルムンクの側近も、
『それ以上言うな』と目配せしてくる。
俺は、あえて無視した。
そんな俺の発言が意外だったのか、
バルムンクは、間の抜けたきょとんとした顔で俺を見ていた。
「ああ、死んだよ」
天気を答えるかのような軽さで、奴は言った。
強がりは感じられない。
そして不思議と、薄情さも感じないその口調に
こいつらしい。と思い、少しだけ安心した。
「そうか、悲しいな」
「そうだな、悲しいな」
奴が素直に同意したので、
俺は少なからず驚いたものだ。
数秒の沈黙の後、
奴は当初の話に戻して語り出したので
俺も議題に集中した。
その後、その話題には一切触れず、
会談はつつがなく終了した。
そして、その後も何年も
バルムンクがこの世を去るまで
その話を奴とすることはなかった。
イバが何故死んだのかはわからない。
バルムンクは語ろうとしなかったし、
俺も訊くことはしなかった。
ただひとつ、わかっていることは
イバは、バルムンクを裏切ることは
決して無かったという事実だけだ。
それがはっきりわかったのは
奴の足元をちょこまかと動きまわる
小さな皇子が纏った
懐かしい若緑の色を見た時だった。
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- VLAD -
この世界には、誰もが知っているこんな伝承がある。
かつて、一人の大魔法使いがいた。
その者は竜の言葉を自在に操り
竜族を従えていた事から
【竜王】
と呼ばれていた。
ある時
大地に無数の裂け目が生じ
【妖素】と呼ばれる毒の空気が、地上へ溢れ出した。
【妖素】に冒された大地は
人間が住むことのできない地に変貌した。
後に、【魔境】と呼ばれる瘴気の地は
少しずつ大地を蝕んでゆき、人々の住む地を奪っていった。
この事態を前に
【竜王】は
【魔境】の浸食から人々を守る為
己の全ての魔力を使って
十体の分身を創り出した。
【十王】と名付けられた分身たちは
【魔境】を封じる【結界】となった。
【十王】は、選ばれた【継承者】と共に封印を担い
【魔境】の浸食を防ぐ守り神として、人々に崇められた。
そして、分身を創り出した【竜王】は、力を使い果たし
その後、姿を消した。
時は流れ
大地は、【魔境】から生まれた【魔獣】たちが
闊歩する世界となった。
【十王】の加護が届かない地にも裂け目は生じ
【魔境】は広がり続け、大地を飲み込んでいった。
人間の世界は
【十王】が鎮守する国
【十王国】だけになりつつあった。
そして、【魔境】に住処を飲まれかけている人々は
自らの土地を守ろうと…
【十王】の奪い合いを始めた。
【十王】の【継承者】は常に狙われた。
あるいは継承を解く為に、命を奪われた。
後に【継承戦争】と呼ばれるその時代は
【十王】の継承が目まぐるしいサイクルで行われ
人から人へ
土地から土地へと渡っていくうちに…
何体かの【十王】と【継承者】の所在は
戦乱の歴史の中に埋もれ、消えていった。
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この世界には、誰もが知っているこんな伝承がある。
かつて、一人の大魔法使いがいた。
その者は竜の言葉を自在に操り
竜族を従えていた事から
【竜王】
と呼ばれていた。
ある時
大地に無数の裂け目が生じ
【妖素】と呼ばれる毒の空気が、地上へ溢れ出した。
【妖素】に冒された大地は
人間が住むことのできない地に変貌した。
後に、【魔境】と呼ばれる瘴気の地は
少しずつ大地を蝕んでゆき、人々の住む地を奪っていった。
この事態を前に
【竜王】は
【魔境】の浸食から人々を守る為
己の全ての魔力を使って
十体の分身を創り出した。
【十王】と名付けられた分身たちは
【魔境】を封じる【結界】となった。
【十王】は、選ばれた【継承者】と共に封印を担い
【魔境】の浸食を防ぐ守り神として、人々に崇められた。
そして、分身を創り出した【竜王】は、力を使い果たし
その後、姿を消した。
時は流れ
大地は、【魔境】から生まれた【魔獣】たちが
闊歩する世界となった。
【十王】の加護が届かない地にも裂け目は生じ
【魔境】は広がり続け、大地を飲み込んでいった。
人間の世界は
【十王】が鎮守する国
【十王国】だけになりつつあった。
そして、【魔境】に住処を飲まれかけている人々は
自らの土地を守ろうと…
【十王】の奪い合いを始めた。
【十王】の【継承者】は常に狙われた。
あるいは継承を解く為に、命を奪われた。
後に【継承戦争】と呼ばれるその時代は
【十王】の継承が目まぐるしいサイクルで行われ
人から人へ
土地から土地へと渡っていくうちに…
何体かの【十王】と【継承者】の所在は
戦乱の歴史の中に埋もれ、消えていった。
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【激戦隊】
・皇室警護・帝都防衛が主任務である儀仗兵団から
バルムンクが部隊編成した対魔導精鋭部隊。
・兵団の部隊・序列関係なく編成され、本来儀仗兵が出撃するはずのない
前線エリアに派遣される。
皇帝直属部隊なので、他の部隊・兵団の命令系統からは独立しており、
主にバルムンクの企みの為に動く皇帝の特殊部隊。
・メンバーは度々入れ替わるが、主要メンバーである
『絶界のロディエル』
『斬光のモーガン』をはじめ、
『黒剣のヤドヴィガ』
『鉄槌のガレン』など、
序列階級のある魔法使いは必ず在籍している。
・この当時は『血塗れのシド』という異名で恐れられた魔法使いも
所属していたが、ほどなく呪障(魔法による肉体・精神負荷が長年蓄積された
ことによって起こる病や障害)によって戦線離脱。後にアズマが後任についた。
・完全にバルムンクの独断編成部隊なので正式名称はなく、
『激戦隊』というのは他の部隊から呼ばれ出した仇名。
激戦区に現れ、どの部隊よりも激闘を繰り広げて勝利する事から由来する。
-----------------
…以上の条件で降伏して頂ければ
皇帝陛下も、『国王一族以外の命』は取らぬとの仰せです。
いかがでしょうか?将軍閣下。
----!!
----!------!!!!!
そう仰ると思いました。
いくら劣勢に立たされているとはいえ、貴方ほどの将が
『主君を裏切り、その首を差し出せ』などという条件を飲むはずがない。
だからこそ我が主君も、貴方をお選びになったのですよ。
よもや国王も、貴方が裏切るとは露とも思っていないでしょうから。
---!!
--------!
諫言痛み入ります。
お互い辛い立場ですが…しかし私も仕事ですので。
--、----。
---!
我々を殺しますか?
そうでしょうとも。
最初から交渉では無く、それが目的だったのでしょう?
でなければのこのこ敵陣に現れた我々を
こうもすんなり貴方の前に通す筈がない。
ただ…ひとつお訊ねしても?
なぜ、我々全員を、
同じ部屋に入れてしまったのですか?
”例え帝国の激戦隊といえど”
”武器を取り上げれば大丈夫”?
”魔法を封じれば何もできない”?
確かに、このような見事な封印結界を敷かれれば
並の魔法使いは赤子同然でしょうな。
”並”の魔法使いなら。
ところで話は変わりますが。
大事なご子息にはもう少し賢いお目付け役を
付けた方がよろしいかと。
隣の部屋から盗み聴きは結構ですが、
こんな話をご子息に聞かせたくはなかったでしょう?
それから後ろの幕裏で控えておられる
優秀かつ名立たる指揮官の方々。
末端の兵士にもちゃんと眼を光らせておいた方がいい。
警戒命令を出している筈なのに、
陣の中で酒盛りしている者が多数いますよ。
緊張感が無いですねぇ。
…おや、国王陛下の義弟であらせられる
グレイグ将軍までお越しとは。
これはこれは、まことに恐縮の至り。
---、
-------!
いえいえ、まさか。
探知術など、使える筈がございませんよ。
ここがまだ、貴方がたの結界の中であれば。
----私の”二つ名”をご存じですか?将軍。
もう一度だけお尋ねします。
降伏しては頂けないでしょうか?
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