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カテゴリ「王と皇帝」に属する投稿14件]

経験不足

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『・・・う~ん、ちょっと状況がわからないなぁ。
 だれか説明してくれる?』



「ダレス卿。どういうつもりだ?」

「それはこちらの台詞ですな、殿下。
 魔法使いをこの国に入れるなど…何を考えておいでです?」

「知れた事。
 妹にかかった【呪い】は、もはや聖霊術ではどうにもならん。
 手段を選んでいる余裕も時間も無い事は、わかりきっているだろう。」

「そこで魔法使いの力を借りようというワケですか?」

「そうだ。」

「承服できませんな。
 治療のフリをして、姫様にどんな【呪い】をかけるか
 わかったものではありません。」

「では、このまま何も手を打たず
 アリィが死ぬのを待てと抜かすのか 貴様らは?
 大した忠義心だな。」

「今、我が国の術師たちが 総力を挙げて治療法を探っております。
 ご安心ください。」

「それでは手遅れになると 何度言わせる気だ!」

「仮にそうなったとしても…
〝ナスカディルの王族は魔法使いに命を救ってもらった〝
 …などという話が広まり、
 この国の沽券に関わるような事態に
 陥るよりは…致し方ありません。」

「はっ、それが【国王陛下】のご意見か。
 相変わらず体裁ばかり拘るじじいだ。
 娘の命すら その天秤にかけるとはな!」

「殿下。そうなった場合に 一番お辛いのは姫様です。
 名誉を汚した王族に対して、陛下がいかにお厳しいか…殿下はよくご存じのはず。」

「…ダレス。警告してやろう。
 私が剣を抜く前に、下がれ。
 今の私には、これ以上
 お前の戯言に付き合ってやる余裕は無い。

 私がアリィの為なら、【何でもする】ことは
 お前もよく〝ご存じ〝だろう?」

「・・・・・・・・。」




『は~、どこの家庭も大変だなぁ。』

「…小僧。
 死にたくなければ余計な口を挟むな。」

『ははっ、どうせ殺す気なくせに。
 最後の一服ぐらいさせてよ。

 ところでこんな話を知ってるかな?

 ドラグーンもハーディンも
 全体の数からすれば 大して差は無いんだけど
 ドラグーンの【カラビニエ】みたいな
 戦闘特化部隊っていうのは 本当に少数で
 ドラグーンの殆どは、
 研究職みたいな非戦闘タイプなんだよね。』

「…あ?」

『クラウンを使える上級者はそこそこ多いけど、
 戦闘機動までできるかと言われたら、そういうわけでもなくてさ。
 やはり戦闘員の多さは、 ハーディンには全然、及ばないみたいだよ?』

「一体何の…」
『でもね』

『そのハーディンも、実戦経験の殆どが
 【魔獣】相手でさ。

 戦闘タイプのドラグーンは少ないから
 遭遇率も低いんだろうねぇ。

 ドラグーンと実戦経験のあるハーディンは
 大僧正お抱えの『暁星騎士団』、
 あとは先の戦争経験者ぐらい。

 その経験者も、今や引退か高齢化しちゃってて
 若手の経験不足が ずいぶん深刻らしい。

 だから結構 やられちゃうんだってさ。
 知らぬ間に ドラグーンの 術中にハマってね。』

「・・・・・・」

『さて、ここで質問なんだけど

 僕の見立てでは、諸君らは全員
 【経験不足】側の騎士だと思ってるわけだが…
 どうかな?
 ・・・・・・・・
 ま…訊くまでもないか。』


-----------------------------------

「…お前、一体 何をしたんだ?」

『んー?
 みんなで仲良く三日ほど 森の中をお散歩してもらうだけだよ。
 前後の記憶はごっそり消えるから大丈夫。
 さっきのやりとりも、ここで僕たちと会った事も全部 忘れるさ。』

「いつの間に呪文を?」

『会話や呼吸の合間にね、
 【竜言語】のせるぐらいワケないよ。
 まぁ この方法だと唱え終えるのに かなり長話しないとダメだけど。
 いや~、のんびり聞き入ってくれたから助かったなぁ ホント。』

「…なるほど。
 さっきの話が事実だということが、皮肉にも証明されたわけだ。」

『・・・・
 (非戦闘タイプも この手の術は出来る事は言ってないけど)
 ま、そういうこと。
 君も気を付けてね。

 お喋りなドラグーンに遭遇した時
 相手の話に付き合ったら 駄目だよ。

 こんな風に、知らない間に催眠かけるなんて
 お手の物なんだからさ。』

「・・・・・・・・。」

『ふふふ、
 警戒しなくても 君にはしないよ?
 【約束】だからね』

『特に僕なんかはガチンコの肉弾戦が苦手だからね。
 色んな手を考えるよ。

 ドラグーンや経験あるハーディンなら、
 【竜言語】の特殊な発音に気付いて
 術の完成前に相手を攻撃したりするんだけど・・・

 マスターの言ってた通りだ。
 経験不足って 怖いねぇ。』





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王と皇帝,ドレイク

師弟
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『クロイツはさー。結婚しないの?』
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「…はぁ??」


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稽古で投げ飛ばされ、地面に手足を転がしたまま
飛び出した言葉が、これだ。

「なんだ突拍子に。」

またどこで何を吹き込まれてきたんだ、コイツは。

『だってさー。
 アンダーソンはもう二人も子供がいるし、
 ドノヴァンだってこないだ、お嫁さん貰ったって聞いたよ。

 でもクロイツは全然そんな気配ないじゃん。
 なんでしないのかな~って』

ああ…
そういえばアンダーソンの奴が
そんな事を言っていたような気がする。
まるで興味が無かったので聞き流したが。

確かに同期の中で未婚の奴と言えば
もう数える程しかいない。

「適当な相手もいないし、何より面倒だ。」

『子供とか欲しくないの?』

「ただでさえ出来の悪いガキの子守りに
 頭痛がしてるってのにか?
 これ以上面倒増やしてたまるか。」

『そっか~。』

…?

妙だな。
普段ならここで、俺の嫌味に対して
ギャンギャン噛みついてくるのだが…
今日はどこか上の空だ。

「なんだ。
 またジジイ共に嫌味でも言われたか。」

カラになった煙草の箱を握りつぶしながら、
言葉を待った。
こいつがやけに大人しい時は、大抵それだ。

聞き流せばいいものを、
いちいち真面目に受け取って悩む。
こいつの悪い癖だ。

『ん~~~~~嫌味というか~・・・・』

大の字のまま、歯切れ悪く
ゴニョゴニョと言い淀んでいる。
複雑、といった表情だ。

その顔を見て、こちらもおおよその察しがつく。

『・・・・・・・・・兄さんがさ…
 ”そろそろ結婚しろ”って勧めてくるんだよ…』

やはりか。

「お前、今年でいくつになるんだ?」
『シックスティーンです、センセー。』
「じゃあ年頃だろう。そんな話が出てもおかしくはない。」
『兄さんは20歳だったよ?』
「陛下の例を持ち出すな。お前とは事情が違う。」
『ふ~~~~ん?どんな?』

突っかかる物言いをしてくるな、このガキ。

「…その少ない脳みそでよく考えてみろ。
 陛下は御妹弟と御父上の葬儀が立て続き、
 そういった話の挙がるタイミングが遅れただけだ。

 さらにその遅れに、
 拍車をかけた、
 最たる原因は、
 誰 の こ と か わ か り ま す か な  ?  殿下。 」

『Σ(゚皿゚)ぐぅ・・・!』

墓穴を掘ったことにようやく気付いたらしい。

気まずそうに黙り込んだ様子に満足したところで、
そろそろ本題を聞いてやることにした。

「…まぁ、陛下もその手の話が挙がった時には
 散々暴れてくださったが。」

『知ってるよー…
 確かマクスウェルの部屋を壊したんでしょ?』

「正確には、”御部屋のあった棟を半壊させた” だ。」

『・・・・自分の時はそれだけゴネといてさ、
 何が、
 ” いい加減、皇族としての自覚と責任を持て” 
 …だよ!
 記憶喪失!?
 記憶喪失ですか兄さん!!!??」

確かに豪快な棚上げではある。

『しかもなんか相手をすでに見繕ってて
 今度会ってみろとか言うんだよ、はーーー!?
 それされてキレたの誰ですか、ええーーーーーー!?』

話す内に怒りが込み上げてきたのか、
珍しく口調が荒くなる。

自慢の黒髪をふり乱しながら、ゴロゴロと地面を転がる様はお子様だが
絶大な信頼を置いている兄からの意外な仕打ちだ。
こいつなりにショックを受けているのだろう。

このワカメの言い分もわかる。
しかし、
陛下のご心配も最もだと思った。

何せこいつは、思春期真っ盛りにも関わらず
異性への関心がまるで見られない。

うぶとか言うレベルではない。
興味を示さないのだ。

6歳で母親から引き離されたことを思えば、
幼い頃は陛下にベッタリなのも仕方がないものだと思っていた。

しかし、それも成長するにつれて自然に
兄離れしていくだろうと・・・。

ところがだ。
こいつは未だに年がら年中
『兄さん兄さん』と陛下にまとわりつき
健在のブラコンっぷりを発揮しているのだ。
幼い頃と同じように。

これはまずいと誰もが思う。

陛下も、なんとかせねばという思いから
縁談に踏み切ったのだろう。

本人が絶対に嫌がるとわかっていても。

そうこうしている内に落ち着きを取り戻したのか。
ワカメ人間がようやく身を起こした。

表情は暗い。

この様子を見る限りでは
不満がありつつも、はっきりと断りきれなかったのだろう。

しかし…

「お前は結婚が嫌なのか?」
『へ?そりゃそうでしょ?』

これは意外だった。
こいつは誰よりも家族愛に飢えていそうなタイプに見えたが。

「何故だ?エリオット様との様子を見る限り、
 てっきり子供好きだと思っていたんだがな。」

この春、2歳になった帝国の第一皇子にこいつは夢中だ。
溺愛してると言ってもいい。

甥っ子と言うよりは、弟に近い感覚なのだろう。
過度に甘やかしてはよく陛下に叱られている。

『エルは可愛いよ。すっごく。
 だからだよ。』

・・・・・・
なるほど、ようやく合点がいった。

「…後継者争いの火種にならないか、心配なのか。」

自分の子が。

『今のところ、エルに竜眼は出ていない。
 可能性はゼロとは言えないけど
 兄さんも、他の学者たちの見解も
 発現率は極めて低いという話だ。僕も同意見さ。』

『そうなるとやはり、
 次の【継承者】になる確率が高いのは
 僕の子供だろう。
 兄さんもそれがわかっているから、僕に縁談を勧めてくる。

 そりゃそうだよね。
 継承が断たれると後々どれほど大変なのか
 僕も兄さんもよく知ってるもの。

 兄さんの気持ちや考えはわかる。
 わかっているんだけどね。』

『それでも僕はいやなんだ。』

「・・・・・・・・・・・」

『兄さん、【竜眼】のことで
 辛かったこと沢山あったと思うんだ。
 きっと僕がここに来た後も。

 だからエルの隣に、
 【竜眼持ちの子】を置きたくないんだ。
 それを兄さんにも、見せたくない。』

「…継承が断たれると
 困ったことになると言ったのはお前だぞ?」

『そうだね。
 でも僕がいなくなったあと、【十王】はきっと
 兄さんたち【直系皇族】に戻るよ。』

・・・・・・・・・・
握ったままの空箱が、さらに潰れていくのがわかった。

『父上が残してくれた記録を色々調べてみたんだけどね、
 過去にも例があったみたいなんだ。
 一時的に直系から外れて、分家の方に継承者が現れても
 その継承者の死後はまた、直系の者に宿ってる。
 やはり血筋が濃い者を好むみたいだね、【十王】は。
 だから僕がこのまま子供を持たずにいれば
 僕が死んだ後、きっとエルの子供たち辺りに【竜眼】が』

「もういい。」

聞きたくない。
そういう含みを持たせた口調で遮った。

こいつが言いたいことはわかる。

気持ちもわかる。

わかるがもう、聞きたくはなかった。

『・・・・・・・・・。』

話を中断させられたにも関わらず、こいつは落ち着き払っている。
ああやっぱり、というような顔をして。


俺の反応は予想通りというわけか。
・・・・・・。

「お前まさか、それと同じことを
 陛下にも言ったんじゃないだろうな?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

言ったな、こいつ。

『…クロイツと同じ反応されたあと、 
  ”とにかく会え。”…で、終わった、かなー…。』

ぶん殴りたくなってきた。

「…いいか? 陛下に対して、
 身内の死を匂わせるワードは 絶対に言うな。
  金 輪 際 だ 。」

何故わざわざ地雷を踏むのだ、こいつは。

『わかってるよー・・・・・。
 でも、しょうがないじゃん!?
 僕だって兄さんたちを思って、色々考えてるのに
 いきなり問答無用で縁談持ち出されてさ~
 だからついついヒートアップして痛い痛い痛い痛い痛い』

頭を掴み上げるようにして立たせた。

最近、【継承者】としての自覚が芽生えてきた様子に
安心しきってしまったようだ。

ここいらで躾が必要だな。

「それだけ生意気な口が利ける元気が有り余っているなら・・・
 手加減は、無用だな?
 感謝しろよ、今日は全力で相手をしてやる。」

『え』

リミッターを全器解除した俺の様子に
冗談や脅しの類ではないと悟った童顔が凍り付いた。
だが、手は抜かない。

『…センセー。 
 ”ギブアップ”は有効でしょーかー…?』(^v^;)ニコッ

「安心しろ。
 気絶したら止めてやる。」(^v^)ニコッ

『ですよねあああああああああああああああ!』

訓練場の空高く放り投げられた奴の叫び声が
稽古開始の合図となった。

今日は結界を強めに張っておいてよかった。
奴の断末魔は誰にも届くまい。

二度とふざけた台詞を吐かないよう
存分に叩きのめすことにした。





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王と皇帝

きょうだい
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------ある親衛隊員の証言

ブラムド様には同腹の兄弟はおられなくてね。
みんな異母兄妹だったけど、とても仲が良かったよ。

年の近いシルヴィア様とは一番仲が良くてねぇ。
特に小さい頃なんて、いつも一緒だった。

小さい頃のブラムド様は、それはそれはいたずらっ子だったから。
ブラムド様が危ないことをする度に、シルヴィア様がお叱りするわけさ。
懐かしいねぇ。

ウィリアム様も、ブラムド様によく懐いておられてね。
ウィリアム様は先帝陛下に似て、とても賢い御方でね。

賢すぎて、その…家臣が言うことはあまり
聞き入れてくださらないことも多かったんだけどね。

でも兄であるブラムド様の言うことには、それは素直に聞くんだよ。

それに唯一の男兄弟だったから ねぇ。
ブラムド様も可愛がってたように思うよ。

末姫のシャーロット様がお生まれになった時は三人共喜んでね。

シルヴィア様が念願の妹だわ!とおっしゃるものだから
ウィリアム様が拗ねてしまったりね。

でもウィリアム様にとっても、初めての下の兄妹だからさ。
可愛くて仕方なかったんだろうねぇ
毎度シルヴィア様と抱っこの取り合いさ。
あれには乳母たちも困ってたねぇ。

そうなるといつも、二人をなだめるのがブラムド様だったね。
ちゃっかり自分でシャーロット様を抱っこしつつだけど。

本当に、仲が良かったよ。
あたしも、あの方たちが大好きだった。




------ある親衛隊員の証言

最初に異変が起きたのは、末姫のシャーロット様だった。

1歳の誕生祝いで、盛大な催しが行われた後…ひと月後ぐらいのことだ。
何の前触れも無く、『竜眼』を発現されたのだ。

それはもう大騒ぎだった。
先代の十王を喪ってから10年以上、誰にも現れなかったからな。

重臣たちは「十王の再臨だ」と、大喜び。
あのご兄妹も、まるで自分の事のようにはしゃぎまわってな。

シャーリー、すごいぞ!
と、あのブラムド様が
屈託のない笑顔で仰られていたのが、今でも忘れられん。

あの方は当時、跡継ぎの中では 誰よりも『竜眼』を欲していたはずだ。
だがそれ以上に、ご兄妹が誇らしかったのだろう。

私はそのご様子を見て安心していたが…

ただ一人

歓喜に湧く宮廷の中で、ただ一人
御父上である皇帝陛下だけが
固い表情をしておられた事だけが、気になった。


シャーロット様はそのひと月後、亡くなった。




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-----ある親衛隊員の証言


よくある幼児の突然死。

流行り病。

暗殺疑惑。

当時は色々な噂が立ったよ。
でもどんな理由であれ、あのご兄妹の慰めにはならなかっただろうね。


つらい時期だったよ。
あんなに泣くシルヴィア様は、あたしも見たのは初めてだった。

今思えばその頃からだったね。
ブラムド様が魔法の研究に没頭しだしたのは。
笑わなくなっていったのもね。

ブラムド様はね、シャーロット様の死因に
『竜眼の発現』が関わっていたと考えていたのさ。

他の学者たちは否定したよ。
だって『竜眼』は、

『十王の魔力を支えることができる
  強い力を持った者にのみに発現する』

とされていたからねぇ。

何より『竜眼』は、
『王の象徴』であると同時に
星竜を崇めるあたしたち魔法使いにとって…

『神の一部』

神聖なものだったんだよ。


その神聖な『竜眼』を宿したことで、『呪い殺された』だなんて…
誰も認めたがらなかっただろうね。

でもブラムド様は、一人で研究を続けていった。

妹君の死の真相を知る為にも。
残った弟妹たちが、その二の舞になるのを防ぐ為にもね。

周囲の反対を押し切って、『外れの魔法使い』なんかに弟子入りしたのも
そういったお考えがあったからさ。

あたしたちは全力でこの方をお支えしようと、心に誓った。

…え?
皇帝陛下はどうしてたかって?

・・・・・・。

何もなさらなかったよ。

シャーロット様が死にかけていた時も。

竜眼発現の兆候に、ウィリアム様が怯えておられた時も。

最期まで兄を信じて、気丈に笑っておられたシルヴィア様にも。

その兄妹を救おうと必死になっていたブラムド様にも。

あの方は何もなさらなかったよ。

だから、あたしはね。
不敬罪だの、不忠義だの言われようが

故人となっても尚
あの野郎が、大嫌いなのさ。




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-----ある親衛隊員の証言

正直、もう王宮には戻って来ないかもな、
と思っていた。

努力の甲斐無く
ご妹弟は、みんな亡くなった。
ヤケを起こしても不思議じゃない。

だが
あの方は戻ってきた。

残っている務めを果たすと。

もう自分には
それしか出来ることが無いのだと。

皇位を継承された後は
ひたすら仕事に没頭する日々が続いた。

何かを振り払うように。
死に向かって生き急ぐように。

・・・・・・・・・。

何も語らないその背中は
悲愴としか、言えなかった。


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王と皇帝

#掌の記憶
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あたたかい


風も 日差しも


わたしを引き上げる あの人の手も


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思い出す様に見る夢


束の間の自由


幸福で 


あの時の日差しのような


あたたかな日々


あの日 あの手をとったこと


今でも後悔はしていません


もう二度と戻らない日々だとしても


あの頃のあたたかさが 私を生かしてくれる


もう十分


宝物は もう十分 頂きました


やさしいお父様 お母様


あたたかい 雨のようだったあの子


私の宝物


ありがとう


そして


ごめんなさい



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王と皇帝

#掌の記憶
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あの大きな手で頭を撫でられるのが好きだった

 
守られていると安心できて


この手の持ち主と同じように


強くなりたいと勇気が出た


--------------------------

 

あの小さな頭を撫でるのが好きだった

 

髪がぐしゃぐしゃになるまで撫でまわすと

 

小さな弟は いつも

 

弾けるように笑っていた

王と皇帝

#掌の記憶
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だからお願い

約束して

私がいなくなった後も


 兄様を守るって



『約束』を交わした 6日後の朝

彼女は静かに息を引き取った


それから何年 時が経っても

あの日の『指きり』の感触が


未だに私を奮い立たせ

未だに 私の心を引き裂きにくるのだ


王と皇帝

#掌の記憶

「ったぁ!あ~、うぅ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

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『クラウディア様』


「何でしょうか」


『陛下がああやって

 ”小さい前習え”をしたまま、

 かれこれ5分以上経過しようとしているのですが。』


「そうですねぇ、

 未知との遭遇に思いのほか手間取っていますねぇ」


 『そろそろ助け舟を出して差し上げてもよろしいでしょうか?』

 

「駄目ですよ。賭けの約束なんですから」


『しかし、このままでは日が暮れてしまいますが。

  また手の角度だけ変えてフリーズしましたし。』


「一体何の入射角を測っているのでしょうねぇ」


「・・・クラウディアさん。」


「はい。

 なんでございましょう、陛下?」

 

「俺が悪かったので許してもらえませんか?」

 

「ええ勿論ですわ、陛下。

  その子を抱っこして頂ければわたくし、全て許します。」

 

「・・・・・・・・」


 『…では私は仕事が残っておりますので、これにて。』

 

「おい待て見捨てるなマクスウェル。

 アル!アルガン!」


「往生際が悪いですよ、”お父様”?

 早くしていただけますか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」



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王と皇帝

悪夢と声

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- SIDE A -


誰かが ぼくを

狭くて暗い場所へ 押しこめる

ぼくは 出して と叫ぶけれど

誰かは手を 差し伸べてはくれない

ただ ぼくに 何かを言っている

でも ぼくはこわくて

さびしくて

必死に出ようと 腕を伸ばす

最後に 蓋がとじられて

ぼくの世界はまっくらになる


そこでいつも 目が覚めるんだ





- SIDE B -




ああ 神様



ああ なんということだ


 

なんだ なにがいけなかった



あの娘に



あの娘に何の罪があったというのだ



どうして どうしてなんだ



ああだめだ 考えるな



走れ



とにかく 今は走るんだ



ここだ


たしかここにあったはずだ


古い水路


わたしが子供の頃 よく通った


湖に通じる 枯れた水路が



大人はとても入れない


でも  この子だけならきっと

 

進めるはずだ



ああ かわいそうに

泣かないでおくれ


すまない どうか許してほしい


お前にひどい嘘を言う


 ----母上はもう先に行った

 おまえも早く行きなさい


----湖へ出たら いいかい?

 フクロウの像で待つんだ

 そこから決して 動いてはいけないよ


 ----少し遅れるが 私も必ずあとで行く

 だから早く行きなさい



わたしは これから死ぬだろう



中央からの助けは


おそらく 間に合わない



もうお前とはお別れだが


どうか 


どうか生き延びておくれ



そして 出来る事なら



今日と言う 悪夢のような日を



永久に 忘れ去りなさい





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王と皇帝,ドレイク

#設定
【咎人 トガビト】

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・【呪い】を受けた者の末路の姿。

・咎人は人であった頃の名前を忘れているので、
  契約者から便宜上、仮の名前を貰う。

・バルムンクは、
 中央に大きな一つ目を持つ咎人を『ヤナギ』
 左右に四つずつ目を持つ咎人を『タチバナ』と呼んでいた。





・魔獣を殺すとその血肉に宿った
 大量の【妖素】を浴び、【妖素中毒死】する。
 これを『呪いで死ぬ=呪死』といわれる。


・しかし、ある【特殊な魔獣】を殺してしまうと
 『呪死』では済まされない、強力な呪いにかかることになる。


・【特殊な魔獣】とは、
 【魔境】の深部に住む上位魔獣のことで、

  【守り人】
  【番人】
  【狩人】
 この上位三席の魔獣種を差す。


・特に【守り人】は、【魔境の主】とも言われ
 大魔境の深部に必ず一体ずつ存在し、
 魔境内の魔獣全ての長であるといわれている。


・その【守り人】への殺傷は、
 ドラグーンにとってもハーディンにとっても
 【最大の禁忌】とされ、
 【絶対に傷つけてはいけない魔獣】として交戦を禁じている。


・【守り人】を殺害してしまうと、
 【守り人】に内包された恐ろしい濃度の妖素が溢れ出し、
 新たな魔境がひとつ生まれると言われている。


・さらに、直接【守り人】に手を下した者には、
 異形の者に変化してしまうという【呪い】が降りかかる。

 そうして異形に変化してしまった者は
 【咎人】と呼ばれる。




・【守り人】を殺し、【咎人】となった人間は
 おぞましい醜悪な姿へと変貌する。例外は無い。

・眠ることも食べることも必要となくなり、
 【呪い】が解かれるその日まで
 永久に近い時を生きる運命にある。


・そして【咎人】となった者にとって、最大の苦痛となるのが
 人であった頃の知性を、そのまま有し続けることである。


・ 死ぬことも、正気を失うことも出来ない【咎人】は
 【呪い】の代償として得た膨大な魔法の知識と魔力を
 時の権力者・あるいは優秀な魔法使いたちに提供することによって
 【呪い】を解く者が現れるのを待ち続けている。


・【咎人】はその醜悪な姿と、底なしの魔力を有することから
 うってつけの戦争兵器であった。


・その為、過去の戦争にも多くの国が【咎人】を投入したが
 【咎人】の力を利用するだけで 【呪い】を解く技量無し、
 と判断された国は 逆に【咎人】によって滅ぼされた。


・【咎人】と契約出来れば強力な助っ人となるが、
 信頼を失えば破滅が待っている。
 そのリスクの高さから次第に
 【咎人】を使役する魔法使いはいなくなっていった。


・ 近年では、もたらされる災厄の大きさから
 【咎人】との契約は国際法で禁止となっている。

・ 【咎人】は、【十王】や【鬼神】の力をもってすれば
  殺害できることが実証されている。
 しかし、【咎人】が葬られた場は強力な瘴気を残し、
 【魔境】へと変貌する。


・【咎人】は、【呪い】から解放されると 瘴気を残すことなく、
 光となって消滅する。


・ しかし過去の歴史をさかのぼっても、
 【呪い】を解くことに成功した魔法使いはわずかである。


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王と皇帝

先帝と十王

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よしよし いい子だ
いい子だな お前は




【SIDE B】

十王から放たれた光が霧散すると、
そこにはもう何も残ってはいなかった。


骨も影すら残さずに。


哀れ、勇敢な騎士は塵となって消えた。


振動した空気の余韻が収まると、

ウルスラグナは、俺を中心にしてぐるぐると落ち着きなく、
蜷局を巻くように回りはじめた。

どうやら他にも襲ってくる者がいないか、
警戒しているらしい。


「・・・ちょっと遊び過ぎたか?」


思いの外、心配をかけてしまった『彼』に対して
悪びれも無く告げると

『彼』は俺の危うい行動を咎めるように、
ふんっ、と荒い呼気を吐き出した。


と、同時に


空からボトボトと、
先ほどまで騎士だった『何か』が、次々に落下してくる。


残っていた『化身』の姿も気配も、とっくに消えていた。


そりゃそうだ。

慌てた『彼』が、俺に向かって身を翻すと同時に、
その巨体で騎士たちを一瞬でミンチにしてしまったのだから。

『彼』にかかれば、『白衣』の騎士すら蟻んこ扱い。

全く、つくづく恐ろしい存在だ。



『陛下!ご無事ですか!』



鱗の壁の向こう側から、カリフの声が響いた。


『彼』は、カリフが味方であることは知っている。

カリフの姿を認めると、スゥッ…と、空に舞い戻った。

やはり、地面よりは空の上がお好みらしい。



「見ての通りだ。
 つか、来るの速くねお前?
 半径1キロ圏外に居ろと言った気がするが?」

今回の『実験』では
純粋な『十王』の力を試したかったので
カリフを含め護衛には全員
前線よりご退場頂いていたのだ。
まぁ、かなり反発されたが。


『全力で疾走すればこの程度の距離
 造作もございません。』


「ああ、そう……。」 


ヤダこの子こわい。


『そんな事よりも、先ほどのような
 敵を挑発する行為は、今後絶対にお止めください。

 なぜ、あんな際どい距離まで敵を引き寄せたのですか?

 騎士の存在には最初からお気付きだったはず。
 もっと早く、迎撃することは可能だったでしょう?』


珍しく怒りを隠しきれない様子で
カリフが詰め寄ってきた。

ほう?傍から見ると
そんなに危なかったのか?


「なに、こいつの機動性を試したくてなぁ。
 いよいよヤバイぎりぎりのところまで
 『待て』をかけてみたんだが…

 まぁ、それでもまだスピードに余裕あったな。
 まぁまぁ良いデータが取れた。」

さかさかとメモを書き留める。

まるで反省する様子のない俺に
心底疲れ果てたような目線を投げながら
カリフが肩を落としている。


『…無茶も好奇心も、ほどほどにして頂かなくては。
 このような混乱した戦場では、我々も
 御身をお護りするには限界がございます』


「と言われてもなぁ…
 奴らの『化身』をまともに相手できる者は
 限られているしな?

 結果オーライだ。
 ま、結局まともな相手にすらならなかったが。」

 『化身』

ハーディンが纏う人工聖霊の最終進化形態ともいえる
巨大な人工魔導体。

1体でも戦局をひっくり返すといわれる奴らの『切り札』が
この度4体も投入されるというから
こちらも胸を躍らせてやって来たというのに、だ。

結果は苦戦どころか片手間でミンチ。
期待外れにもほどがある。
 
「雑魚過ぎてまともなデータ取れやしねぇ…。」

全く持って実に残念すぎる。
まさかここまで能力差があるとは思わなかった。

通常『化身』4体相手では
『カラビニエ』全隊投入しても、損害は免れなかっただろう。

ところが『彼』一体でこの戦果。
まさに『ジョーカー』だ。


『…まさか本当に、十王の戦闘能力を測る為だけに
 今回の戦いを仕掛けたのですか…?』

「うん。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


『そんな事で、
 帝国の、
 神聖なる、
 英知の象徴である、
 十王を、
 戦 場 に 投 入 し な い で く だ さ い 。

  …他国への心証が悪すぎます。』

最後は力なく言い放つ。

呆れて怒る気も起きない。
そんな様子だった。


「別にいいだろ?

 『化身』相手じゃ、どうせこっちも
 『咎人』あたりを使うつもりだったんだろうが。
 どっちでも心証変わりはしねーよ。

 それに俺も別に殺戮破壊が好きなわけじゃない。

 ただ必要な実験要素として
 結果的に人命を消費してるだけ。」


『・・・・・・・・・。』
返す言葉もない。
そんな様子だった。


「あー…つまらん。

 やはり『人工聖霊』相手じゃ話にならんな。
 こんなにも性能差があるとはなぁ。

 やはり『十王』の相手になるのは、同じ『十王』しかいないのか…?」


たいして書きこまれていない戦闘データのメモを眺めながら
ブツブツと文句を並べる俺に
フリーズから解けたカリフが問いかけてきた。


『陛下は何故、それほどにも
 十王の能力を測ることに 拘られるのですか?』

おいおい、今更それを訊くのか…。

まさかこいつ、今まで本気で
俺が娯楽目的で十王を戦争に使ってた、
と思ってたんじゃないだろうな。


「…得体の知れないものを、持たされるのが嫌なだけだ。

 ある日突然、ことわりも無く
 扱い方も性能もよくわからん
 特級の『爆弾』を背負わされてみろ。

 気持ち悪いったらありゃしねぇ。
 そうだろ?」

そう。

『十王』はまさに
『得体の知れない存在』だった。

過去数百年の記録を洗っても
帝国の守護者たる
十王『ウルスラグナ』の記録は、

結界の要である『竜歌』と
形状などの『見た目』以外のことは
ろくに残っていない。

特に『継承者』の記録など、
百年以上前のものは皆無に等しい。

『継承者』は代々出現しているにも関わらずだ。

帝国混乱時代に記録が焼失した可能性もあるが
それにしても資料が少なすぎた。

帝国の生命線ともいえる『十王』に関して
ずさんな管理をしていたとは考えにくい。

意図して残さなかったのか。

あるいは誰かが記録を消し去ったのか。

いずれにしても理由はわからない。


だが、よくわからないままでも
『継承者』は十王を受け継がなければならない。

『継承』を逃れる術が、無いゆえにだ。

わけのわからないまま、押し付けられる『十王』

強制参加の『継承システム』

【加護】というより、まるで【呪い】のように
俺たちの一族に受け継がれるのは何故なのか。


「ご先祖共は後継者争いにお熱で、
 そっちの方にはてんで頭が回らなかったみたいだが…。」

『知らなかった』で馬鹿を見るのは、御免だ。



空を仰ぐ。

『王』に相応しい、雄大な姿で『彼』は空を泳いでいた。

その姿に、疲れは微塵も窺えない。

先ほどまで、『化身』4体相手に戦っていたとは
思えないほどだ。

これだけの圧倒的な力を持ちながら
下僕というよりは、無垢な子供のように
『継承者』に従う、十王『ウルスラグナ』


その力の見返りに、最終的に『何を求められる』のか…


今までの『継承者』は考えた事がなかったのか?


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


黙り込んだ俺に、
カリフはいつもの思案癖が始まったと判断したのだろう。
親衛隊へ無線連絡をしている。

そろそろ撤収しなければならない。
納得のいくデータが取れたとは言い難いが、
相手がいないのであればしょうがない。

すでに敵は、空を独り占めしている『彼』の姿を見て
完全な敗北を悟っているはずだ。

これ以上、戦いを仕掛けてくることも無いだろうが
撤収の時間まで、『彼』を自由に泳がせておくことにした。



あの青鱗が広大な蒼穹に混ざる姿は 
子供の頃から幾度も見た。

しかし、何度見ても 美しい。

『十王』そのものに対して、嫌悪や不満があるわけでは無い。

このまま、歴代がそうしてきたように
『継承システム』に身を任せる事は簡単だ。

しかしそれは

このシステムの『裏』に隠れている 『何か』の存在に、

『何か』の意図に

思うように、操られているような

そんな気がして


つまり


非常に、面白くない。




確かめてやる。

『十王』とは、

この『継承システム』の意味は、

一体、何なのかを。


俺なら必ず解る。その確信があった。




そんな俺の思惑など、知る由も無いのか。

『彼』は大きくうねりをあげながら、
空の上で、呑気に『歌』を歌い出した。


ああ、またあれを歌っているのか。


『彼』は、人間の歌が割りと好みらしい。


俺が以前、気まぐれに口ずさんでいた歌を
いつの間にか覚え、
時々、こうやって歌うのだ。



背後から
慌ただしくこちらへ駆けつける
親衛隊の気配がする。


地上は
屠った騎士たちの死臭と、黒煙が漂い
地獄さながらの様相だったが


降り注ぐ『彼』の歌声だけは


天の国のものだった。




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【SIDE A】





悪夢のような光景だった。





十王一柱の参戦で、
形勢が一気にひっくり返ってしまった。


『化身クラス』の聖霊すら、まるで歯が立たない。
 桁違いとは、まさにこのことだ。


上空ではまだ仲間が奮闘している。
だが、全滅するのは時間の問題だろう。



十王は、必死で食らいついてくる
『化身』たちに対して
まるで児戯に興じる幼子のように
踊るように、
軽々と蹴散らしていく。


その気になれば、
一瞬でカタをつけることも可能であろう。


しかし、敵の戦意を
最後のひとかけらまで
じっくりとそぎ落とす為に

遊ばせているのだ。あの男は。


「化け物め…!」


『化身』を破壊されてしまった私に、
もはや十王とまともに戦える力は残されていない。

このまま仲間が倒れていく姿を
見届けるしかないのかと
唇を噛みしめた。



その時だった。



辺り一帯を、幕のように覆っていた黒煙が
わずかに晴れた。



その隙間に、あの男の姿を捉えた。



高みの見物と言わんばかりに、
ひとり呑気に、上空にいる自らの十王を眺めている。



千載一遇の好機…!



私は走り出した。



あの男の首を獲るには、今しかない。

奴の十王は今、遥か上空。
この距離なら、奴が十王を手元に戻すより先に
私が奴の首を刎ねる方が速い。


奴を殺せば、十王も消失する。


こちらの戦団はほぼ壊滅状態。
手練れの騎士の殆どを失った。

いまさら足掻いたところで、我々の敗北は確実であろう。

 
ならばせめて


(帝国の切り札である十王を奪ってやる…!)



眼前に、奴の姿が迫る。

刃圏に入るまで、あと5秒もかからない。

あきれたものだ。護衛をひとりも連れていない。

こちらに気付いた奴と、目が合った。



だが、もう遅い。



そう思うのと、私が剣を抜くのは同時だった。



獲った!




そう確信した、瞬間。



私の目の前に、『壁』が現れた。



突如出現したそれに為す術もなく、
私は弾き飛ばされる。



「!???!!…っっ!」



予想だにしなかった痛みと衝撃に耐えながら、
なんとか体勢を立て直した私が見たものは



今まさに放たんとする、禍々しい閃光を湛えた
『十王』の巨大な口と

 


うっすらと笑みを浮かべた
奴の、不気味な竜眼




それが最期だった。




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王と皇帝,バルムンク