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創作語りとかラクガキ

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二柱

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月盗り 数多の 御魂と成りて


清流 流るる 儚き華と


惑い たゆたう 永き旅路に


示すしるべは あらずもがな


根の底這うは 天の墓


わらべのごとき 夢の跡


くすぶる荒き 宿り火が


おぼろに沈む 深き水底


天を廻り 地を歩み


違わねばこそ 浮かぶ瀬もあれ


幻のかなた 見つめるは


いとしき影と 戻りえぬ道


こだまも返らず ただひとり


暗き林を 彷徨うごとく


進むは楽土か 奈落の底か


時も眠りも 救いにあらず 


想いのみが 頼る杖なり




マギ唱伝 第6号
【王の旅】

ダイゴ暦575年出土
旧ララミア宮殿
王膳の間にある壁画にて


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竜と人間 Ⅱ


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竜の裁可によって
『魔法』を失った人々は

竜を怖れ その殆どが
竜の力が及ばぬ
地下世界へと逃げ込んだ

しかし地上には
竜を慕い
残った者もいた


かつて
虐げられた人々だった


『魔法』を使えない
地上での生活は過酷なものだった

しかし 彼らはもう
高度な文明を求めなかった


彼らは
人間に
『罰』を与えた竜を
崇め続けた


神から賜った力を
欲の為にしか使えなかった人間への
当然の『罰』だと

彼らは受けいれた


時折
人々の前に現れた竜を前にすると

彼らは
赦しを乞うように祈り続けた


そんな彼らを前に

竜はもう

『罰』を与えようとは思わなかったが


彼らに二度と
『魔法』を与えることもしなかった


その代わりに
竜は


彼らに
『歌』を与えた


『歌』であれば
誰も血を流すことは無い


『歌』であれば
誰も死ぬことは無い


この過酷な暮らしの慰めに







人々は『歌』をうたった








そんな暮らしがずいぶんと


ずっとずっと


長く続いた頃






ある時





月から 星が堕ちてきた






光を纏い



炎を纏い



神々しくも
恐ろしい



『それ』を




人々は『炎の巨人』と呼んだ




天空は
巨人の炎で夜を焼かれ




大地は
巨人の炎に覆われていき




海原は
巨人の炎で干上がっていく





竜は
人々に言った





 あの『巨人』は
 全てを滅ぼす使いである

 我々『竜』も 『人』も

 地上の生き物全てが等しく息絶える

 死の使いである

 いずれ来るはずだった 『約束の時』が

 とうとう きてしまった





それを聞いた人々は
祈ろうとした


『死』を受け入れる為の祈りだった


しかしそれを


竜は止めた





竜は言った





 『約束の時』は
 『竜王』と『巨人』との約束である

 『約束』はいずれ 果たされるべきである


 しかしそれは 今ではない


 『わたし』はこれから『竜王』に背き

 『約束の日』を 先延ばす


 『わたし』はもう
 お前たちの前に現れることは無い


 『竜』はもう
 世界を監視することは無い


 お別れだ
 『祈りのにんげん』たち


 『わたし』が教えた『歌』を謡って


 ときどき 『わたし』を 思い出しておくれ





竜は飛び去った





とおく とおく
『巨人』が燃え立つ 海の上へと



同胞の竜が
次々と焼け墜ちていく 空の下へと


飛び去った




やがて




赤く染まっていた天空に
闇夜に戻り


唸りをあげていた熱風が
声を潜め


まさに火が消えたような
静寂が戻ったが





竜は戻らなかった





永遠に


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これは遠い遠い むかしの話

今では一部の語り部しか
知らない『竜』の伝説

『魔境』が生まれるより遥か前

『旧世界』と呼ばれていた

むかしむかしの 世界の話


竜と人間 Ⅰ

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世界はかつて
竜によって管理されていた

ひとつの生き物が増えすぎないように監視し

世界のバランスを保つことが
竜の役目だった


人々は、この偉大な英知の象徴でもある
竜を崇めていた


竜もまた
地上でも特に個性的な考えを持つ
「人間」という生き物に興味を持ち


竜の力の一部を人間に与えた

その竜の力は後に
『魔法』と呼ばれるようになった




人間は『魔法』を生活に役立てた

『魔法』は人々を幸せにした

竜はただ その様子を見ていた




ある時
人々の間で争いが起きた




きっかけが何だったのかはわからない


ただ争いはどんどん大きくなり


人々は
戦いの武器として


人を傷つける道具として


『魔法』を使った




『魔法』は多くの命を奪い

『魔法』は多くの国を焼いた

『魔法』は多くの森を焼き

『魔法』は大きな海をも汚し

『魔法』は多くの生き物の住処を奪った






竜は ただ見ていた






長い長い争いが
ようやく収まると

人々は
より良い暮らしを求めて

『魔法』を使い
国を大きく発展させた




大きな工場が建ち並び

そこから出る黒い煙が
空を覆った

そこから出る灰色の水が
川を汚した

『魔法』は

”人間”の生活を 幸せにした


そして 
強い『魔法』を使える者ほど

弱い者を虐げ

奪い

踏み付けにした


やがて『魔法』は
”強い者”の象徴になった






竜は 






ただ見ていた








”幸せな人々”は


姿を見せなくなった
竜のことを


すっかり
忘れ去っていた


もうとっくに
死んでしまって


生きていないとすら
思っていた







”虐げられた人々”は


”幸せな人々”が支配する国を捨て


竜のもとへ


戻ることにした





そして






竜は現れた






竜は”人々”に向かって
こう言った





お前たちに与えた『魔法』を 返してもらおう 






この言葉を聞いて
”幸せな人々”は言った




 ふざけるな 古くさい神め
  こんな理不尽が許されるか








この言葉を聞いて
”虐げられた人々”は言った

 
 どうぞ御心のままに 我が神
  貴方に全てを委ねます
 







そして”人々”は 

『魔法』を喪った




国は機能しなくなり

『魔法』で支えられた文明は

脆く 

あっけなく

立ちどころに

崩れ去った



さらに竜は



混乱する”人々”に対して

まるで
追い打ちをかけるかのように

文明の抜け殻となった
”人々”の都市を

徹底的に破壊した







畑を耕すかのように

虫を駆除するかのように

ただ淡々と

無情に

人の文明を

全て








無に帰していった




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VLAD

有り得たかもしれない未来

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生存IFイバと幼ブラムド





歌をうたっている。


まだ歩くことも


話すこともおぼつかない幼子が


私の懐で上機嫌に 歌っている。


あまり面影が似ていないのに


懐かしく感じるのはなぜだろうか



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イバ(一8)

慟哭

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幼い頃からそうであった

殿下は決して泣くことが無い


母君を見送った朝も

父君に銃口を向けられた夜も


あの方は決して泣くことは無かった


最初から そんなものは 持ち合わせていないかのように

 

あの方の竜眼が  涙で歪むことは無い


ただ


あの追憶の黄昏で


まばたきひとつせず


嗚咽の声ひとつ無く


辺りが宵闇に包まれて


明けの明星が昇るまで


ただ「其処」に座していた あの御姿を



 私は忘れることが出来ない


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くれない,バルムンク

絶唱

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それは、「神」が降りて来たような声だった。





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鍵盤が心地よく沈む。
よく手入れされているのだろう。

正確な音程が、静かに長く
部屋に響いた。

もはや感覚が殆どない指で
一音、また一音と
音を思い出すように奏でた音色は、ひどく緩慢だが
かろうじて、ひとつの曲には聴こえた。

聴衆は他に誰もいない。

夕闇に包まれた広い部屋の中央で
ピアノと私だけが、この音を聴いていた。


---------


遠くからワルツが聴こえる。

祝宴の気配が、この部屋にも微かに届いていた。


今日は王宮で
盛大な宴が行われている。

『皇帝』が即位してから
初めて迎えた誕生日だそうだ。


その為、主役たるご本人様は
早朝から小さな体に似合わない
重苦しい衣装にせっせと着飾られ、

そのひどく不機嫌な顔を見送ったきり、
今日は会っていない。

今頃は苦い顔をしながら
玉座であくびをかみ殺している事だろう。


さすがにああいった場で、
私のような『いてはいけない人間』が
顔を出すわけにもいかず

こうして独り、待機を命じられている。




静かだ




いつぶりだろう
こんなに静かに過ごすのは。


日もすっかり落ち、部屋は漆黒に包まれていたが
明かりを点ける気にはならなかった。

暗闇と静寂の中にいると、任地にいた頃を思い出す。

目的も志も無く生きる私にも、『役目』を与えてくれる戦場で

何も考えず、
ただ消耗して生きていたあの頃を。

かつての私にとって
戦場こそが安寧の揺り籠だった。

常に周囲とのズレを感じていた私には
戦場はまさに、ぴったりと嵌る『枠』のようで。



だが



今思えば、その『枠』は
ただの『棺桶』だったのかもしれない。

もはや戦う事が叶わなくなったこの身になって
つくづく思う。

私は『誇り高い騎士』ではなく

『人間』ですらなく

ただ『道具』に成り下がっていたことを。





当時はその事にすら気付かなかった。

なぜだろう。
あの頃の自分は、今の自分とは
あまりにも遠い『他人』に思えた。






暗闇の中で再び、鍵盤に触れる。
先ほどと同じ音運び。

知っている曲はこれだけ。
好きな曲も、これだけだった。


なのにずっと、忘れていたのだ。


少なくとも、騎士だった頃は
脳裏をかすめもしなかった曲。

なぜだろう。
最近になってふと、思い出したのは。


最後の音に触れる。


闇に吸い込まれるようにして
音は消えた。




すると、





パチパチパチ


「いい曲だな。」



小さな拍手と共に、『闇』が喋った。


『闇』は月明かりまで歩み寄り
小さな子供の形になって、現れた。


今朝見送った時とは別の、
だが同様に重そうな衣装は
『皇帝』の象徴たる『紫』に覆われている。


いつの間にそこにいたのか。


「ついさっきだ。
 廊下に音が漏れていたからな。
 まさかお前とは思わなかったが」


心の声を拾ったかのように答える。

私の訝しげな眼を見て、
何を言いたいのか悟ったらしい。

バルムンクは、こういう所には
何故か聡い子供だった。


- うたげ は どうした -


手話で訊ねる。

この暗闇で見えるかどうかは疑問だったが、
こいつはやたら視力は良いので
多分大丈夫だろう。


「抜け出してきた。
 ったく、何時間も座らせやがって
 いいかげん尻が痛ぇ。」


腰に手を当て
身体を反らしながら愚痴る姿は中年のようだが、
実際はまだ8歳の子供である。

長時間の儀式や宴は、さすがに応えたようだ。
身体を伸ばす度に、ポキポキと音が鳴っている。


「お前の国でも、こうなのか?」



・・・?


「誕生日の事だ。
 庶民でも、派手に祝うもんなんだろう」


バルムンクは固まった身体をほぐす様に
両腕を左右に振り回している。


誕生日か。

さすがにここまで派手に祝うのは、
王族ぐらいだろうが。

普通の家庭でもご馳走を食べたり
歌を唄うぐらいは、するのだと思う。

と、手話で伝えた。

「ふぅん…お前も?」

否。

即座に首を振った。


- たんじょうび を しらない
  いわったこと は ない -


私が育った孤児院は常に貧しく、
その日食べるものにすら、困窮する日々だった。

だから『誕生日を祝う』という事自体
無縁なものであったし

そもそも親に捨てられた私にとって
殆ど意味の無い様に思える、空しい単語だった。


だから、


- おまえ が すこし うらやましい -


なんとなく、素直に
そう伝えてしまった。



「・・・さっきのは、故郷の曲か?」



話題に興味を無くしたように
バルムンクはぷいっと横を向いて、
今度は足を前後に開くストレッチを始めた。

…少しバツが悪そうに見えるのは、私の気のせいだろうか。


問いかけに対して
私は肩をすくめて、首を振る。

わからない、曲名すらも知らない。
という意味を込めて。


「ふーん、まぁいいや。
 もう一度弾いてみろ。」



は?


声が出せるのなら、
間違いなくそう、発していただろう。


一流の宮廷楽士の演奏にも
『聴くに堪えない』と下がらせるほど
奏者の好き嫌いが激しいこいつが、


私の拙い演奏に興味を持つとは
あまりにも意外だったのだ。



「そう怪訝な顔をするな。
 今日は特別だ、歌ってやろう。」



意外な発言の連続に
私の頭はますます混乱する。


歌う?こいつが?

そんな様子は一度も見た事が無い。

だが、そういえば…聞いた事がある。

皇帝の祖たる『竜王』の妻は、
荒神を鎮めたという伝説が残る程の『歌姫』であり、

彼らの子孫たる皇族たちは皆、
その美声を受け継いでいるのだという。

その証拠に、過去の皇族には
歌に秀でた皇子・皇女が数多くいたことを
ハーディンである私ですら知っていた。

だが、

そういったイメージとは
果てしなくかけ離れたこいつが


歌う…


・・・・・・・・・


全く想像がつかない。



「お前今、
 ものすごく失礼な事を考えてるだろ?

 いいからさっさとしろよ。
 歌ってやらねぇぞ、全く」



暗闇で不愉快そうに歪められた竜眼が
こちらを睨みつけてきた。

今日は一体どうしたというのだろう。
演奏しろだの、歌ってやるだの。

バルムンクの行動は、
いつも気まぐれで、突拍子で、意図がわからない。

ならば考えても仕方ないと思い直し
私は言われるまま、鍵盤に手をかける。

歌いやすいよう、先ほどまでより
いくらかテンポを速めて弾き始めたが


我ながらひどい演奏である。


バルムンクの事をとやかく言える筋合いではなかったな。

と思い始めた、その時。







全身が粟立った。










・・・・・・・・・



嵐のような音の波が去っても、

場の空気は
爆発でも起こった直後のように、波打っていた。




「…とまぁ、こんな感じだ。


 ご感想は?」




まるで何事も無かったかのように、


バルムンクはケロッとした様子で、私を見据えた。


さきほどまで、神懸った歌声を
披露していた本人とは思えない軽さだが、


私に返答する余裕はない。


鍵盤の上に頭を預け、
緊張から解放されて脱力しきった腕は、
あげるのも億劫だった。



「くはははは、
 ご満足頂けて何よりだ、イバ。」



バルムンクは悪戯が成功したような
笑みを浮かべながら
わざとらしいほど優雅なお辞儀をした。




正直、『呪歌』に近いものであった。


直接神経に障るような。


あらゆる衝撃と刺激が強すぎて


感動というより


そう



心臓に、悪い。





ありがとう、二度とやるな。

そう意味を含ませて、ビシッ!と指差すと
バルムンクはますます、上機嫌に笑った。



と、


部屋の外で、慌ただしく人が動く気配がする。

どうやら彼の『絶唱』は
宴の場にまで響いていたようだ。


「さて、そろそろ戻るとするか。

 今のでさすがに
 『皇帝』の不在に気付かれたようだしな。

 騒ぎが大きくならない内に、収めてくる。」


影武者か何か、残して来たらしい。
こいつのわがままに付き合わされて不憫だな。

そう憐憫の眼差しを浮かべる私の肩に
バルムンクがポンッと手を置く。

まだ何かあるのか?と身構えていると



「誕生日おめでとう、イバ。

 お歌も唄ってやったんだから、もう拗ねるなよ?」



ああ????


今度は間違いなく、声が出た。

といっても、掠れた空気の音しか出なかったが。


「光栄に思えよ?

 俺と同じ誕生日と、俺の歌がプレゼントだ。

 そうだ、毎年歌ってやろう」


くっくっくっと笑う奴の顔は、
新しいおもちゃを見つけた、悪魔そのものだ。



やめろ生き地獄だ。


首をぶんぶん振ると、
下敷きにされたままの鍵盤から、不協和音が飛び出した。

それがまるで私の心情そのままのような音だったので、

子供はますます、ケラケラと笑うのであった。


















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くれない