MEMO

創作語りとかラクガキ

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No.34, No.33, No.32, No.31, No.30, No.29, No.287件]

#記録と記憶
記録と記憶③
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「くはははは!

 よくやったブラムド。
 初めてにしては上出来だ。」


『・・・・・・!』(ゴクリ)


「ん?
 なんだお前、びびってんのか?」


『べ…べつに!
 こわくないもん!』


「おう、そうかい。
 さすが俺の息子だなぁ。

 なら隠れてないで
 ご挨拶してやれよ、ほれ。」


『わっ!ちちうえ!』


「ほら、しゃんとしろ。
 舐められるぞ。

 ちゃんと【コイツ】の眼を見て
 しっかり覚え込ませるんだ。

 だれが【主人】なのか、な。」


『~~~~。』
((((´・ω・`;)


「心配するな。
 ちゃんと上手くいってる。

 【コイツ】はお前に忠実な【下僕】となった。
 お前に危害を加えることは出来ない。」


『しもべ?』


「お前の言うことをなんでも聞く
 召使いってことだ。

 まぁ色々教えてやれよ。
 はじめての【使い魔】だぞ。」


『ふーん…?
 あ!ねぇ、ちちうえ!
 ルヴィにも見せたい!
 見せていい?』


「あーーー…。
 いや、ブラムド。
 シルヴィアに見せるのは、だめだ。」


『え~?
 なんで?』


「おいおい、俺が最初に言った事を
 もう忘れたのか?

 いいか、もう一度だけ言うぞ。

 今日、ここでの出来事は
 ルヴィにも、母上にも、
 誰にも言ってはいけない秘密だ。

 特に、

 特にだぞ?

 マクスウェルには
 絶っっっっっっっ対に
 言っては駄目だ。

 …わかるな?
 俺と、お前だけの
 秘密だ。」


『・・・マクスウェルに、おこられる?』


「怒られる。
 絶対に、怒られる。」



『…じゃあ、ひみつにする・・・。』


「よしよし。
 いい子だなぁ、お前は♪」









あの日の事は、よく覚えている。



珍しく父親にかまってもらえた
嬉しさもあって

幼い俺は、
ホイホイと親父の
『言う通りに』した。


ちちうえがいるから、だいじょうぶだ。


あの頃の俺は、
親父を信じて疑わなかった。


後に魔法を学んでいく内に

当時の俺が
どれほど『 危険な事をしたか 』

わかった時は戦慄したものだ。

なぜ親父はあの時
俺に『 あんなこと 』をさせたのかは
わからない。


ただの好奇心だろうか。


それとも、なにか目的があったのだろうか。


今ではもう、確かめようがない。



・・・・・・・・・・。



『あの日』のことは
いまだに、誰にも言っていない。






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ブラムド

#記録と記憶
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あれはきっと
俺が初めて魔法を使った日

そして

初めて誰かに

呪いをかけた日



記録と記憶②





「・・・ねぇ、ちちうえ?」


『あー?』


「きょうは、ぼくに
 『まほう』をおしえてくれる
 やくそくだよね?」


『ああ、そうだとも。

 それもとっておきのやつだからな。
 準備も入念に…
 必要なわけだ…っと。
 よしよし、こんなもんだろう。』


「なにをしてたの?」


『結界を張った。
 八層砦型・音絶式。

 まぁーこの部屋自体が強固な結界みたいなもんだが
 大袈裟すぎるぐらいがちょうどいい。
 おっかないお目付け役の耳にでも届いたら大変だ。』


「・・・」


『さて、ブラムド。
 部屋の中央にある【アレ】が気になっているご様子だな。
 あれが何か、覚えているか?』


「まえに、ちちうえの 
 “けんきゅーしつ” でみた。」


『物覚えが良くて何よりだ。
 【アレ】は今、
 研究に使っている大事な実験サンプルでな。

 俺は 【№8341】 と呼んでいる。』


「はち、さん…?」


『ま、覚えなくていい。
 いいか?
 ここからが重要でな、ブラムド』


『お前は以前、
 【アレ】が自分の方を見ている、
 と言っていた。
 覚えているか?』


「うん。」


『…今でもそうか?』


「・・・・・・・・・・・。」



・・・・・・



「…うん。」


『よしよし、では本題だ。

 【アレ】は人みたいな形をしただけの
 枯れ木に見えるが…

 お前も感じているように…
 おそらく何かの”念”が宿っている』


「ネン?」

『何かのきっかけで
 心みたいなものが宿ったってことだ。

 だがそれは吹けば消えるロウソクのように
 小さく、不完全なものだ。
 
 そして【アレ】は見ての通り
 目もなければ口も無く
 話す言葉すら持っていない。

 【アレ】が何かを考えていても、
 こっちには何も伝わらないし
 わからない。』


「うん?」


『そこでだ、ブラムド。

 【アレ】が、
 自由におしゃべりできるようになる
 【魔法】がある。

 それを一緒に唱えてみないか。
 それが今日、お前に教えてやる【魔法】だ。』


「!」



・・・・・・・・




「で、でも、ちちうえ。
 ぼく、まほうの、えっと、
 ”りゅうげんご”???
 とか、なにもしらないよ?」
 

『俺が唱える音を、そのまま真似すればいい。
 なに、多少とちっても問題ない。
 俺が補助してやるから大丈夫だ』


「でも、でもどうして
 ちちうえがやらないの?

 ぼくがやるより、
 ずっとじょうずにできるんでしょ?」


『そうしたいのは山々なんだがな~
 いろいろ事情があってな~~~~
 思い出しても腹が立つ…


「?」


『まぁとにかく、
 何事もやってみるのが一番だ。
 本読むだけのお勉強はつまらんだろう?』


「でも・・・」


『……おや?

 まさか…
 まさか息子よ………。

 お前…怖くなったのか?』


「!」


『いやいや…確かに難しい魔法だ…

 おまけに呪文も長いしな…

 ふつーーーーーの5歳のお子様には

 ぜっっったい無理だろうが

 皇帝の息子であるお前なら…
 もしかしたら…

 出来るんじゃないかと結構…
 期待したんだが…

 仕方ない!
 いや、何も恥じるな。
 俺もお前を怖がらせたくはないからな。


 …やめるか?』


「やる(゚Д゚)」


『いやいや…無理するなよ…。』 


「や!る!(゚Д゚)#」


『おおっ!

 そうか~やるのか~

 さすが俺の息子だな~。』






--------------------------------------------



実にちょろいと思われたに違いない。

幼かったとはいえ、親父の安い挑発に乗った自分は
まんまと親父の思惑通りに
【式命術】を使う羽目になった。




--------------------------------------------




『いいか、ブラムド。
 肝心なのは最初と最後だ。

 他の詠唱はカバーしてやれるが、
 最初と最後の【名前】だけは、
 正確に、はっきりと発音しろ。』
 

「わかった。」


『ではおさらいだ。
 最初に唱える【名前】は?』


「ぼくの【まこと名】。」


『最後に唱えるのは?』


「【あの子】につける名まえ。」


『完璧だ。

 では、

 始めるとしよう。』




--------------------------------------------


あとで知った事だが

『式命術』とは本来
魔獣を【使い魔】として隷属させる為に用いる
『名約』の術。

だが、用いる際の【禁止事項】が存在する。


『生物以外に使ってはならない』

『念の込められたものに使ってはならない』

ここでいう生物の定義は
『血の通った動物』のことであり

古い館
宝石
人形
壊れた道具
永く生長した植物
人が描かれた絵画や写真

過去、これらに『式命術』をかけた結果
『異様な者』が宿ってしまい、事故が起きた例が多数残っている。

そのことを、あの親父が知らないはずがない。

あのくそ親父
5歳の息子になんて危険なことさせやがると
怒りが湧いたものだ。



--------------------------------------------


 『…此に敷かれるは天下る降臨の儀』

 「われ、-------------の名において
 うつろのうつわに ”名”をかんする」

 『耳無き者は 音を知り』

 「かおなきものは かたちを持ち」

 『己無き者は 自らを得る』


 「うぞうむぞうと」
 『森羅万象の流れから』
 


 『「この名をもって
  これより汝は ただ汝となる


  この名は汝の心臓
  汝の冠
  汝の魂となり

 
  我と汝を結ぶ標


  虚無の檻から解き放ち

  水鏡映すその身を 汝と覚え

  今ここに 祝福を降ろす




  暁のように目覚めよ



     -------。     」』






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術が成功したことは
幸運というべきか、不運というべきか。

今の『彼』を見る限りでは、
まだそれははっきりとはわからない。

これが親父のやりたかった
『実験』だったのだろうか。

その答えをいつか聞き出そうと思っていた矢先、
親父は驚くほどあっさり逝ってしまった。

・・・・・・。


親父の死後、

かつての研究室を漁り
【№8341】に関する記録をひたすら探してみたものの


とうとう何も見付からなかった。




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ブラムド

#記録と記憶
記録と記憶①

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記録:xx年x月xx日
観察対象:No.8341


・日光、水の供給を停止してから7日目。
 養分として与えたラット3匹は
 わずかな体毛と骨を残して分解されている。
 やはり生物から栄養を摂取すれば
 水が無くとも生存できるようだ。


・そして生物からの摂取の方が
 生長と再生が格段に速い。
 面白い事にこの個体は
 人型を模すように再生する。


・以前からこの種は、捕食した生物の形状に
 変化することは確認されていた。
 しかしその殆どが四足動物で
 人型に化ける個体は確認されていない。


・この個体が過去に人間を捕食し
 その形状を記憶したと推察できる。
 しかし生息地の環境から
 人間だけを過剰に摂取したとは考えにくい。


・なぜ数多くの捕食した生物の中から
 人間の形状を取ろうとするのか。  
 次の実験では、人間の血液を与えてみ
「ちちうえーーーーー!
   これなーにー?」
 「若様いけません!お待ちください!」




・・・・・・・はあーーーーーーーー…。



「あ、待て止まれ!
 それに触るなブラムド!

 おい、マクスウェル…
 おちび連れて来んなよ。」


「申し訳ございません、陛下。
 
 偶然通りかかったところに
 ここへ入り込もうとする若様をお見かけしたものですから。
 お止めしたのですが…」


「それはご苦労だったな。
 ミハはどこだ?
 こいつのお守りはあいつの役…って、
 さ、わ、ん、な、
 つってんだろうがお前は。」


「え~、なんでダメなの?」


「お前の破壊神っぷりは有名だからな。
 先週は書庫の書物に足跡つけまくったとか?」


「あ!わかったこれガイコツだ!」


「聞け。」


「それにしても…
 相変わらず趣味が良いとは
 言い難いものばかり研究されていますね。

 【タタリガダリ】に
 【シゲンバナ】…

 どなたか呪い殺すおつもりで?」


「お前とかな」


「おや【モドキガミ】ですか、これは。
 実に珍しい」


「あんな頭が堅い人間になるなよブラムド。
 わかったか?」


「わかんない!」



「変わった形態をしていますね…
 一体何の実験です?」


「まぁ色々と、だ。
 まだまだ観察段階だな」


「しかしこの種は
 国が認めた研究機関以外での保有は禁じられている
 第一級禁種ではありませんでしたか?」


「よく知ってるな。感心感心。」


「……そう定められたのも
 陛下であったと記憶しておりますが。」


「ああ。
 だから何の問題ない。」


「・・・・・・・陛下」


「そう睨むな、お堅い”堅牢”よ。
 いつだって俺が法律だろ。
 なぁブラムド?」


「ちちうえがホウリツ?」


「若様に悪質な帝王学を刷り込まないでください。」


「おおらかに育てる方針なんだよ、うちは。」


「左様でございますか。

 それ故に若様の多少のいたずらも
 おおらかにお許しになるのですね。

 流石、御心が広くていらっしゃる。」


「あ?

 ・・・・・・・おいブラムドお前それ
 いつの間にどこから持ってきた!?」


「ひろった。」


「嘘つけ!
 あ、コラ押すな!返せ!

 ~~~~なんでガキってのは
 ボタンだのスイッチだのやたら押したがるんだ」


「あー!かえして~!」


「やかましい。この槽を開けるな。
 せっかく整えた実験環境を台無しにする気か、
 お前。」


「・・・・・・・・・・・・」


「何笑ってんだ、貴様」


「いえ、なにも。」


「も~かえして!
 かえしてよ、ちちうえー」



「くどい。
 一体何がしたいんだ
 お前は」


「だってでたがってるんだもん」


「・・・・・はぁ?」


「ほら、ずっとこっちみてるよ?」





------------------------------------





どれくらい
こうしていただろう


”故郷”に いたころは
時の ながれなど
かんじたことも なかった けれど


ここにいると ずいぶん ながい事
こうして いるような 気が してくる


いつ日が のぼり
いつ日が しずんだのか


まっくらな ここにいると
なにも わからない


ここは せまい
くうきが おもい


みずも ひかりも 
なにも ない


なにも ない この中に
あるひ やってきた ちいさな ネズミは
すぐうごかなく なって しまった


すっかり 冷たくなって しまうまで
ながめた あと


少しずつ たべた


たべながら ながれて きたのは




『コワイ』


『クルシイ』




ちいさな ネズミたちの 記憶


いきものの 記憶



コワイとは なんだろう


忘れないように
ゆっくり たべた




------------------------------




音しか きこえない せかいに


ちいさな あしおとが やって きた


あしおとが 目の まえで とまる 


いつも きこえる
ニンゲンの 成人個体の
ものとは ちがう


たかい 声


ニンゲンの 幼体 



目が あった



目のまえに あるのは
くらやみ だったが


なぜか 


目が あったような 気がした


記憶に ある ニンゲンの 幼体は


こんなに つよい
気配を もって いた だろうか



いや そもそも 



この 幼体は





・・・・・・・・・・・・・







わからない







----------------------------------------




「・・・・・」

「・・・・・」


「?」


「そりゃ気のせいだ、ブラムド。
 こいつは生き物じゃない。

 庭に咲いてる草花と同じで
 ただの木の枝だ。
 人みたいな形してるから
 見られているように感じただけだ。」


「そうなの?
 ん~~~でも・・・」



「…そろそろシルヴィアが
 昼寝から起きる頃じゃないか?
 またお前がいないと
 兄様兄様って泣きまくるだろうな。
 戻らなくていいのか?」


「あ、そうだった!

 じゃあね、ちちうえ!
 タバコひかえめにするんだよ!」



「どこで覚えたそんな台詞…
 …クラウディアか」







「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・コレに、意思があると思うか?」


「なんとも申し上げれません…
 ですが若様は、以前から
 こういったものに関して
 我々よりも敏感に感知されますので。」


「魔境の物とはいえ、植物だぞ?」


「もしかすると、新種の【人外】かもしれません。

 いずれにしても、得体が知れない事は確かです。
 研究もほどほどされて
 早めにご処分なさってください。」


「…ふむ」
(その前に少し試してみるか…)


「絶対に駄目です。」
「何も言ってねぇが?」




「よからぬことをお考えの顔でした。

 よろしいですか、陛下?

 間違っても、絶対に、

 【名付け】など、されませんように。」


「・・・・・・チッ。」
(読まれたか…)


「魂が宿ってしまいます。

 ましてや【人外】の可能性がある個体になど
 何が起こるかわかりません。
 厄介事は貴方だけで十分なのですから。」


「さらっと暴言吐きやがったなお前。」


「まだまだ申したいことはございますが
 我慢致しましょう。

 陛下、お約束してください。

 でなければ今、ここで、それを燃やします。」


「わかったわかった。
 観察が終わり次第、こいつは焼却処分する。

 書類にサインでもすればいいか?」


「【名約】でお願い致します。」


「…いい加減にしろよ貴様。」


「お願い、致します。」



「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」



「・・・・・・はぁー、


【我、バルムンク・シイ=オルテギアの
 名にかけて誓う】



 …満足かボケ!本当に信用ねぇな!」


「結構です」


「このクソモノクルが、
 不敬罪でいつか殺す…。」


「ええ、ええ。
 その日が来ることを楽しみしております。」









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ブラムド

#設定
二柱

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月盗り 数多の 御魂と成りて


清流 流るる 儚き華と


惑い たゆたう 永き旅路に


示すしるべは あらずもがな


根の底這うは 天の墓


わらべのごとき 夢の跡


くすぶる荒き 宿り火が


おぼろに沈む 深き水底


天を廻り 地を歩み


違わねばこそ 浮かぶ瀬もあれ


幻のかなた 見つめるは


いとしき影と 戻りえぬ道


こだまも返らず ただひとり


暗き林を 彷徨うごとく


進むは楽土か 奈落の底か


時も眠りも 救いにあらず 


想いのみが 頼る杖なり




マギ唱伝 第6号
【王の旅】

ダイゴ暦575年出土
旧ララミア宮殿
王膳の間にある壁画にて


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VLAD

#設定
竜と人間 Ⅱ


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竜の裁可によって
『魔法』を失った人々は

竜を怖れ その殆どが
竜の力が及ばぬ
地下世界へと逃げ込んだ

しかし地上には
竜を慕い
残った者もいた


かつて
虐げられた人々だった


『魔法』を使えない
地上での生活は過酷なものだった

しかし 彼らはもう
高度な文明を求めなかった


彼らは
人間に
『罰』を与えた竜を
崇め続けた


神から賜った力を
欲の為にしか使えなかった人間への
当然の『罰』だと

彼らは受けいれた


時折
人々の前に現れた竜を前にすると

彼らは
赦しを乞うように祈り続けた


そんな彼らを前に

竜はもう

『罰』を与えようとは思わなかったが


彼らに二度と
『魔法』を与えることもしなかった


その代わりに
竜は


彼らに
『歌』を与えた


『歌』であれば
誰も血を流すことは無い


『歌』であれば
誰も死ぬことは無い


この過酷な暮らしの慰めに







人々は『歌』をうたった








そんな暮らしがずいぶんと


ずっとずっと


長く続いた頃






ある時





月から 星が堕ちてきた






光を纏い



炎を纏い



神々しくも
恐ろしい



『それ』を




人々は『炎の巨人』と呼んだ




天空は
巨人の炎で夜を焼かれ




大地は
巨人の炎に覆われていき




海原は
巨人の炎で干上がっていく





竜は
人々に言った





 あの『巨人』は
 全てを滅ぼす使いである

 我々『竜』も 『人』も

 地上の生き物全てが等しく息絶える

 死の使いである

 いずれ来るはずだった 『約束の時』が

 とうとう きてしまった





それを聞いた人々は
祈ろうとした


『死』を受け入れる為の祈りだった


しかしそれを


竜は止めた





竜は言った





 『約束の時』は
 『竜王』と『巨人』との約束である

 『約束』はいずれ 果たされるべきである


 しかしそれは 今ではない


 『わたし』はこれから『竜王』に背き

 『約束の日』を 先延ばす


 『わたし』はもう
 お前たちの前に現れることは無い


 『竜』はもう
 世界を監視することは無い


 お別れだ
 『祈りのにんげん』たち


 『わたし』が教えた『歌』を謡って


 ときどき 『わたし』を 思い出しておくれ





竜は飛び去った





とおく とおく
『巨人』が燃え立つ 海の上へと



同胞の竜が
次々と焼け墜ちていく 空の下へと


飛び去った




やがて




赤く染まっていた天空に
闇夜に戻り


唸りをあげていた熱風が
声を潜め


まさに火が消えたような
静寂が戻ったが





竜は戻らなかった





永遠に


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VLAD

#設定

これは遠い遠い むかしの話

今では一部の語り部しか
知らない『竜』の伝説

『魔境』が生まれるより遥か前

『旧世界』と呼ばれていた

むかしむかしの 世界の話


竜と人間 Ⅰ

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世界はかつて
竜によって管理されていた

ひとつの生き物が増えすぎないように監視し

世界のバランスを保つことが
竜の役目だった


人々は、この偉大な英知の象徴でもある
竜を崇めていた


竜もまた
地上でも特に個性的な考えを持つ
「人間」という生き物に興味を持ち


竜の力の一部を人間に与えた

その竜の力は後に
『魔法』と呼ばれるようになった




人間は『魔法』を生活に役立てた

『魔法』は人々を幸せにした

竜はただ その様子を見ていた




ある時
人々の間で争いが起きた




きっかけが何だったのかはわからない


ただ争いはどんどん大きくなり


人々は
戦いの武器として


人を傷つける道具として


『魔法』を使った




『魔法』は多くの命を奪い

『魔法』は多くの国を焼いた

『魔法』は多くの森を焼き

『魔法』は大きな海をも汚し

『魔法』は多くの生き物の住処を奪った






竜は ただ見ていた






長い長い争いが
ようやく収まると

人々は
より良い暮らしを求めて

『魔法』を使い
国を大きく発展させた




大きな工場が建ち並び

そこから出る黒い煙が
空を覆った

そこから出る灰色の水が
川を汚した

『魔法』は

”人間”の生活を 幸せにした


そして 
強い『魔法』を使える者ほど

弱い者を虐げ

奪い

踏み付けにした


やがて『魔法』は
”強い者”の象徴になった






竜は 






ただ見ていた








”幸せな人々”は


姿を見せなくなった
竜のことを


すっかり
忘れ去っていた


もうとっくに
死んでしまって


生きていないとすら
思っていた







”虐げられた人々”は


”幸せな人々”が支配する国を捨て


竜のもとへ


戻ることにした





そして






竜は現れた






竜は”人々”に向かって
こう言った





お前たちに与えた『魔法』を 返してもらおう 






この言葉を聞いて
”幸せな人々”は言った




 ふざけるな 古くさい神め
  こんな理不尽が許されるか








この言葉を聞いて
”虐げられた人々”は言った

 
 どうぞ御心のままに 我が神
  貴方に全てを委ねます
 







そして”人々”は 

『魔法』を喪った




国は機能しなくなり

『魔法』で支えられた文明は

脆く 

あっけなく

立ちどころに

崩れ去った



さらに竜は



混乱する”人々”に対して

まるで
追い打ちをかけるかのように

文明の抜け殻となった
”人々”の都市を

徹底的に破壊した







畑を耕すかのように

虫を駆除するかのように

ただ淡々と

無情に

人の文明を

全て








無に帰していった




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